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蓄音機今日のステレオ
ヘンデル
室内楽曲集

映画「ジョンとメリー」。ダスティン・ホフマンがミア・ファーロウにヘンデルのレコードを聞かせて馬鹿にされるシーンがありました。
ヘンデルが好きだと言うと、ブラスバンドで演奏した人には共感してもらえますが、たいていのクラシック音楽愛好家には変わり者だと思われるようです。
でも、ヘンデルが好きです。

拙宅の朝はヘンデルのヴァイオリンソナタで始まります。寝室の iMac が毎朝、起動音に続いて流します。一番好きなニ長調のソナタが始まるころには、もう起きないとならない時刻で、曲に合わせてゆっくり伸びをしてから起き上がります。

きっかけといえば、ヴァイオリンソナタニ長調を黒沼ユリ子のコンサートで聞いたのがはじまりです。
翳ったものとて何もなく、上昇する音型が空に向かって一線に伸びていき、ふっくらと丸みを帯びた力強い響きが身の回りを包んでくれる。
この気持ちよさ。それがヘンデルなのですが、それが何だと言われれば、「はい、わかりました。こっちの隅でひとりで聞いていますから。」としか言いようがありません。

でも、コンサートで耳にタコができるぐらい聞かせられるベートーヴェンやチャイコフスキーには、気持ちよさに代わる何があるのか、お好きな方によく聞いてみたい。
赤ちゃんが音楽が聞こえるとうれしい顔をする。ワーグナーだとどういう反応があるのか、聞かせたことがないのでわかりません。
ヘンデルだったら? きっと気持ちよく眠ります。

ハノーファーやロンドンの宮廷楽長をしていたので、大規模な曲が多いのですが、親密に聞くことができる小規模な編成の曲もたくさんあります。
そこで今回のおすすめは、
L'ecole D'orphee ヘンデル室内楽曲集

6枚組みですが、料理や掃除のときに流しておくと元気が出て仕事がはかどります。夜落ち着いたときに聞くとしんみりほのぼのと気持ちが良くなります。

この盤を知ったのは、ここで弾いている John Holloway というヴァイオリニストに魅かれて、ずっと追いかけていたからです。この人のバッハのソナタ集という愛聴盤があるのですが、いま手に入れるのは難しいようです。最近新たに録音したとの情報がありました。バッハが好きな方は注目です。

今年はモーツァルトの生誕250年なのだそうで、レコード屋さんが商売にしていますが、モーツァルトの憧れる力が美しい音楽を生み出したし、憧れた方向が天上の方角だったということが、みんなに共感されるのだと思います。

去年生誕320年だったヘンデルは、モーツァルトのように昇華された美しさではないにしても、母性のように包み込む芳醇さがほかの音楽家にない強さを生み出していますし、憧れた方向は天上ではなく、大衆が共有している感情だった。だから、いまの時代に聴いても親しく感じられるのだと思います。(むかし学校ではバッハを「音楽の父」、ヘンデルを「音楽の母」と教えられました。今も?)