演奏会見聞録
04年1月1日 ウィーンフィル-ニューイヤーコンサート |
元旦の夜はテレビの「ウィーン・フィル ニューイヤー・コンサート」の中継が毎年の楽しみです。 12月に郡山に出かけてウィーン室内合奏団の夢のようなコンサートを聴いたので、オーケストラが映るとすぐ、あの時のメンバーを探していました。 ファゴットのミヒャエル・ウェルバ氏発見。チェロのタマーシュ・ヴァルガ氏発見。第1ヴァイオリン、コンサートマスターの後ろ二人目に、あの夜のリーダー、ヨゼフ・ヘル氏発見。縁の下の力持ちだった第2ヴァイオリンとヴィオラのリー兄弟は今日はお休みのようですが、あの夜の音楽を生み出した歴史を体現するこの街の一番の宝物がこのオーケストラです。 チェロで女性メンバー発見。ウィーンフィルは伝統的に男性奏者だけで、ハープを男性が弾くのを見たことがある。つい最近女性のメンバーの加入が認められたとニュースになったのは覚えているが、私の見た限りで初めての女性奏者。どきどきしてしまった。「天体の音楽」では女性のハープ奏者も発見。とりあえず、女性の加入で音色に変化はないみたい、当たり前か。 ロリン・マゼールがヴァイオリンを弾きながら指揮した84年に衛星中継が始まったころから、もう20年以上毎年欠かさず観ているはずで、おなじみの顔がいなくなっていたりもするが、若い人たちに引き継がれていくのを観る楽しみがもっと大きい。 ブライアン・ラージが映像監督をするようになって何年たったか。89年のカルロス・クライバーの最初の登場の時に、はじめてラージの名前を意識した。それまでも、87年のカラヤンの年など、美術館の記録映画のように均整の撮れた映像には感心していたが、ラージ氏が担当するようになってから、映像にぬくもりと流動感が加わった。この人の映像は、ソロをとっている奏者を見せるのは基本として、音楽の流れの変わり目のきっかけ(動機)となる低音部や中音部の動きを押さえるのもその上の基本として、それぞれのポイントで指揮者が重要視している動きを担っている楽器を押さえるのをまたその上の基本として、部分に集中したい時間と全体をながめたい時間を観客にとって一番バランスのいい位置からきちんと見せてくれる。残念だが、こういう才能を感じさせる映像をこの国のテレビでは見たことがない。 「スケート・ポルカ」でのスケートリンクの映像を構成するのに、音楽に合わせるセンスの良さ。 「天体の音楽」での高い天井からの撮影で、見ていると人工衛星からコンサート会場を眺めているような感じ。キューブリックの「2001年宇宙の旅」のような浮遊感。 休憩時間に流れるオーストリアの観光案内? のビデオのきれいなのも毎年のこと。 こういうテレビを毎日観たい。 NHKも、休憩時間に前半の「フレデリーケ・ポルカ」「タランテラ・ギャロップ」の2曲をハイライトで放送したり、サッカーのハーフタイムに得点シーンを録画で解説するのにならったような新機軸を打ち出した。 ムーティの指揮の下、輝かしい響きを存分に聞かせ、「タランテラ・ギャロップ」のギャロップのリズムのような速いテンポの曲ではオペラのオーケストラの強みを発揮、根が生えた地面が揺れ始めそのテンポが上がっていくような安定感。ウィーンの強さ。ソロの楽器のひとつひとつを上手だとか音がきれいとか言うレベルではなく、歴史を持つ町並みそのものといえるほどに完成された美しさを愛でましょう。 (覆された宝石)のやうな朝/何人か戸口にて誰かとさゝやく/それは神の生誕の日。(西脇順三郎「ambarvaria」より「天気」) という詩はこのオーケストラにぴったりだ。 恒例の国立歌劇場のメンバーのバレエ、今回は「加速度円舞曲」「シャンパン・ポルカ」の2曲。踊りはテクニックを超えた高い場所で雲が移ろうように流れていく。身体の喜び、はかなさと、おかしみ。「加速度円舞曲」ではバレエの映像の陰で、コンサートマスター、ライナー・キュッヒル氏のソロも美しく、目も、耳も、とろけそう。 アンコールの最後「ラデツキー行進曲」では、ムーティは自分が何をしなくてもオーケストラは十分に美しいからと考えたのか、観客席の指揮に専念、オーケストラにはアクセントの部分だけ指示していた。そういえば、コンサートの中で、何度も指揮棒を振らない時間があった。昔は髪を振り乱してしゃかりきに振っていたのに、ウィーンフィルの地の良さにやっと目覚めたの? ムーティの舞台劇の感覚と、オーケストラの響きが溶け合って、今の時代の最高の音楽が鳴っていました。 あとでウィーン・フィルハーモニカのホームページ(日本語版あり)を調べたら、1月2日午前0時(オーストリア時間)から来年のコンサートのチケットの予約をインターネットで受け付けていることがわかりました。何年後か、ケント・ナガノが指揮するときには、これは行かずばなるまい。 ウィーン・フィル ニューイヤー・コンサート2004 |