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楽譜   演奏会見聞録

09年5月30日

Trio f

すっかりおなじみになったトリオF、結成以来4回目の演奏会とのことです。
1回目はベートーヴェン大公トリオ、2回目はブラームスのホルントリオとピアノトリオ、3回目は聞き逃してしまったようです。チラシには「今回は弦楽三重奏」と。ヴァイオリンとヴィオラとチェロ、3つの楽器の音をゆっくり楽しめそうな構成です。

最初はシューベルト。
未完成交響曲が有名ですが、この三重奏曲も第1楽章だけ書かれて放棄されてしまったのだそうです。はじめて聴く曲なのになつかしさを感じました。歌が聞こえてきて、「美しい水車小屋の娘」や「冬の旅」のような青春のあふれる心情に触れたようでした。
もっとも今日のトリオの演奏は鼻歌のように軽く、リズムも曖昧なところが多かったのですが、シューベルトらしい半音刻みのゆらぎや、たゆたうような、うら悲しい旋律に引き込まれるようでした。
この曲への共感をもっと強く出してくれればよかったのに。

べートーヴェンのセレナード。
去年の弘源寺木管五重奏団のパンフレットで教えられた、「最初と最後の曲は入退場を兼ねて、行進できるような作風」というセレナーデの形式です。第1楽章と第7楽章が行進曲で間に5つの曲を包んでいます。
あのベートーヴェンも青年のころ、宮廷音楽家だったということでしょうか。音楽の聞き手が宮廷から市民へと変わっていく過渡期、ベートーヴェンも自分の確立に必死だったでしょう。
4楽章では葬送のようなアダージョの旋律がスケルツォの冗談でかき消されたり、5楽章ではポーランド風の舞曲、6楽章は変奏曲、作曲家の経歴のなかのいろいろな場面で使われた手法があらわれてきます。こどものころからの好みだったのでしょう。茶目っ気たっぷりのところがあったり、悲壮感に身が引き締まるところがあったり、ベートーヴェンらしい曲でした。
4楽章ではチェロの分散和音の支えが立派だったし、6楽章の変奏曲ではヴィオラとチェロが活躍していました。

休憩後のベートーヴェンのトリオは4楽章構成。
コン・ブリオ - 雄渾のうちに - は熱をもち、カンタービレでは落ち着いた歌、後期の曲とは違って優しいスケルツォ、8番の交響曲のように踊るプレスト。弦3人での演奏ということで、すべての声部が隠れることなく耳に届いてくる。ベートーヴェンの構成美のいちばんわかりやすいかたち。
演奏者もこの曲では自信に満ちて、青年ベートーヴェンの覇気とでもいうものがあらわれていました。

もっとたっぷり歌ってほしい、煽るようなリズムもほしい、と注文すればきりはないのですが、人を集めることが目的のような昨今のコンサートには期待できない、ささやかでぬくもりのあるプレゼントをもらった演奏会でした。また来年に期待しましょう。

Trio f
福島テルサFTホール
2009年5月30日土曜日14時30分開演

Trio f トリオエフ
齋藤恭太 ヴィオラ
河野美記子 ヴァイオリン
塚野淳一 チェロ

プログラム
シューベルト 弦楽三重奏曲 変ロ長調 D471
べートーヴェン セレナード ニ長調 Op.8
べートーヴェン 弦楽三重奏曲 ト長調 Op.9-1