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楽譜   演奏会見聞録

07年5月2日

Trio f ブラームスの夕べ

 ブラームスの室内楽を楽しみに、連休の谷間の夕方、街まで出かけました。受付で入場券を求めると、ありがたがられたようです。例によってオーケストラでないと客が入らないこの街のコンサートホールです。

 Trio f の1年ぶり2回目の公演です。去年はベートーヴェン、今年はブラームスと室内楽の王道を歩みます。

 最初、ホルンは威圧的に聞こえました。ほかのふたつの楽器の動きが陰に隠れて見えません。それにあるはずの音が聞こえません。「こわれて出ない音がある」ようです。アダージョでは目をつぶって聴いてみました。音は出ていても響かないだけでした。それに気づいてからは、それぞれの音の絡みが聞こえるようになり、いつもの人なつっこいブラームスが帰ってきました。
 悲しみや勇気を日だまりに置いてしまうブラームス、同時代の「進歩的な」音楽家から論難されたのはこの後ろ向きのあたたかさなのか。でも、ほんとうに「後ろ向き」? 進歩はまゆつばもの、と歴史を振り返るこのごろです。

 ところで、ナチュラルホルンが当夜のハイライトでした。「当たり前に使われていたバルブ付きのホルンでなく、わざわざ Waldhorn(森のホルン=ナチュラル・ホルン)を使うように指示している」(当夜のパンフレット)ということで、そういえばいつもレコードで聴くとかっちりした強い構成に耳が行きますが、この演奏では郷愁をそそられるやさしい肌ざわりの音楽になっていました。

 後半はピアノトリオです。
 「アレグロ・コン・ブリオ」は、ベートーヴェンでは肩を怒らせた気合いの入った音楽なのですが、ブラームスはこの第1楽章で叙情的に歌ってしまいます。この親しみやすさ、初めて聴く人でも懐かしさに胸がいっぱいになるでしょう。con brio [輝きをもって]、ベートーヴェンはきらめく輝き、ブラームスは夕陽の鈍い輝き。
 ユーモアの第2楽章スケルツォは中間部で優しさも見せます。静かにうつろう第3楽章アダージョ。たぎるマグマのように絶えず噴き上げる情熱のアレグロ、第4楽章。おなかはいっぱいになりました。

 トリオfが名手揃いとは思いませんが、3人の息がよく合って、ブラームスの音楽の大事なところを聴かせてくれました。昨年とピアニストが変わったせいか、ピアノ主導という感じがなくなり、3人が細やかにアンサンブルを作っているのに共感しました。
 プログラムに、「第2番」「第3番」を取り上げる計画が載っていました。心強いことです。当夜のチェリストも加わる弦楽四重奏のコンサートのチラシも配られました。期待しましょう。

Trio f ブラームスの夕べ
2007年5月2日水曜日18時45分開演
福島テルサFTホール

Trio f
塚野淳一(チェロ)
河野美紀子(ヴァイオリン)
小泉満里(ピアノ)

関本隆夫(ホルン)

ブラームス: ホルン・トリオ 変ホ長調 op.40
第1楽章 アンダンテ
第2楽章 スケルツォ:アレグロ
第3楽章 アダージョ・メスト
第4楽章 アレグロ・コン・ブリオ

ブラームス: ピアノ・トリオ第1番ロ長調op.8
第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ
第2楽章 スケルツォ:アレグロ・モルト
第3楽章 アダージョ
第4楽章 アレグロ