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楽譜   演奏会見聞録

06年4月27日

Trio f ベートーヴェンの夕べ

さて、今日はベートーヴェン。レコードがすり切れるほど好きだった「大公」トリオが聴けるというので、勇んで出かけました。

最初の二重奏曲は、ヴァイオリンとチェロで演奏されます。
モーツァルトが旅先のパリで感化を受けたという優雅なディヴェルティメントのような親しみやすい音楽です。
モーツァルトより固さが感じられるのは、ベートーヴェンの性格なのか、それとも今夜のヴァイオリンの音の輝きの薄さからくるのかはわかりません。
楽しさが舞台から伝わってきて、急-緩-急 の緩、第2楽章でチェロがしみじみ語り始める。輝きの薄さは、古楽器の響きを模倣している、とか?
でも、とてもよくバランスがとれていて、気持ちがいい。

WoO.27 がベートーヴェンの真作かどうかは疑問とされています。作曲の年とされる1792年のベートーヴェンは22歳、この5年前1787年に17歳の少年ベートーヴェンはウィーンに出かけて、モーツァルトを訪問しています。この年のモーツァルトはフィガロの結婚でプラハで好評を博しました。

続いての「幽霊」トリオ。
ピアノが加わって響きが俄然華やかになる。
ピアノが豊かに歌い始め、音の丸さ、強さ、表情があらわれると、薄い音しか出さないヴァイオリンとチェロは影が薄くなり、ピアノの支配下に入ってしまう。
楽器として完成した響きの強いピアノは奏者に力量を要求せず、力量が響きに表れてしまう弦楽器は陰にまわるという構図なのか。ヴァイオリンとチェロのオブリガード付きピアノ曲といった風情になってしまう。
第2楽章、「幽霊」のあだ名のもとになったチェロの響きはうらめしや〜のお化けのよう。しっかり音を聞かせて欲しいな。
テンポをピアノが先導して、演奏に高揚感が生まれ始める。なるほどこういう形でもなければ主張のないただのもたれ合いに終わったかもしれない。
ここで事件が。客席前方にカメラマンが現れ、右から左へと揚々と歩き回り、フラッシュ光とシャッター音をまき散らす。10枚ほど撮影したかしらん。
ハプニングのあと、三者が高潮、フィナーレは熱い盛り上がりを見せた。3人の音が溶け合ってこちらに響いてくる。こちらの耳が慣れてきただけではないようだ。集中が高まったのだろう。5番や7番の交響曲のようなベートーヴェンの白熱。

さて「大公」トリオ。
輝きのある豊かなピアノと、低弦の強い響きをはじめて聞かせたチェロ、表情を見せはじめたヴァイオリン、3人の主張があらわれる絶好調のすべり出し。
生き生きとしたピアノ主導の第2楽章スケルツォ。第3楽章アンダンテ・カンタービレ〜マ・ペロ・コン・モート、ピアノの序奏にヴァイオリン、チェロが合わせて入るところの美しさはいつ聞いても身が引き締まる崇高さ。
今夜の弦はあっさりだけれど、それもいい。聴衆の大きい呼吸に合わせるかのような自然さ。チェロの低音部、ヴァイオリンの軽い歌、なんと、チェロにユーモアまで!
この頃のレコードはスターの寄せ集めで、いつでも3人が対等だが、ベートーヴェンの時代はどうだったのだろう。スター=ベートーヴェンのピアノに伴奏の楽団員だった? すると今夜の演奏は、響きは今風でも、アンサンブルのかたちは当時の演奏形式を踏襲している?

アンコール。ベートーヴェンのようではあったが、半音の下降音型がロマンティックでシューベルトを思わせるようなところあり。
ピアノ三重奏曲第6番 変ホ長調 Op.70-2(1808年)第3楽章。堅物とばかり思われるが、ベートーヴェンは侮れない。

さて、今シーズンの市音楽堂の予定が届きました。この数年の流れのファミリー向けポップクラシック路線に色濃く染められ、腰が引けてしまいました。
今夜の会場、福島テルサは音楽堂と同じ市の振興公社が運営していますが、自主企画は落語会ぐらいで、市民の自主的な催しに場所を貸すだけというスタイルです。
お役所の効率主義の企画より、演奏家がやりたいときにコンサートを開く、いわば「民間主導の」ほうが好みの音楽が聴けそうだといえば、皮肉が入りますが、とりあえず、市音楽堂のコンサートは何でもというのはやめることにしました。
FTホールは1階席348、2階席を合わせて480席のホールで、舘野泉氏のリサイタルを聴いたときに、響きのよさが印象に残っています。今夜のピアノもよく響いていました。
市内には駅前の児童施設「こむこむ」が昨年オープン、ここのわいわいホールは296席。室内楽にちょうどよい大きさのホールがここにもあるのですが、聴衆に恵まれないのか、需要がないようです。
私にできることといえば、よいと思うコンサートに足しげく通うこと。それだけなので、市音楽堂への足が遠のく分、広く目配りをしていくつもりです。

Trio f ベートーヴェンの夕べ
2006年4月27日木曜日18時45分開演
福島テルサFTホール
ピアノ 鈴木桂子 ヴァイオリン 河野美紀子 チェロ 塚野淳一
クラリネットとファゴットのための3つの二重奏曲 WoO. 27 より ハ長調
ピアノ三重奏曲 第5番 ニ長調 作品70-1「幽霊」
ピアノ三重奏曲 第7番 変ロ長調 作品97「大公」