演奏会見聞録
05年7月10日 チェコ・プラハ管弦楽団 |
チェコのオーケストラが大挙来日中、当地でも6月21日のプラハ交響楽団に引き続いての演奏会となった。あちらでも「皇帝」協奏曲が選曲されていた。売り手も売り手なら買い手も買い手、企画の貧困、名曲偏重、意欲がそがれてしまう。 ともあれ、演奏家は音楽を聴かせるのが、聴衆は音楽を聴くのが仕事、と思い直して、着席。プログラムを読むうちに気になって、ホールへ戻り、今日のソリストのCDを購入。 コリオラン序曲。「力強く動的な英雄の主題」「優しい愛妻の主題」と当夜のプログラムの曲解説にある両テーマが夫婦が共同で家庭を作り上げるかのように展開する。理想主義のベートーヴェンらしく直情、明快、新劇の芝居を見るよう。指揮者は力まず、楽員たちもベートーヴェンの音楽に忠実に奉仕しているという印象。 同じチェコといっても弦の印象が違う。今日のオーケストラは室内オーケストラで規模が小さいのがひとつ、加えて、音量の振幅の大きい音楽を機能的に演奏するというのではなく、それぞれのパートを際だたせることで立体感のある音楽を作り上げるという方向のようだ。このホールではこちらの方が聞きやすい。 さて皇帝協奏曲やいかに。 最初のピアノの独奏で、ひとつひとつの音が磨き込まれているのにまずびっくり。決然としたテンポで、曖昧なパッセージがなく、すべて明確に聞こえる。オーケストラの陰に沈む音がひとつもない。まばゆいとか突き刺すというのではなく、表面を磨き上げた黒御影、どこの石工が仕上げたか。 蒸気機関車のようなカデンツァ(スポーツカーでもロケットでもない)、楽譜の要請に確かめ確かめ響きを選んでいる。 第2楽章の変奏曲、アダージョではひとつひとつの音をたっぷり撓めて、夢のような世界に誘ってくれる。シューマンやショパンの宇宙。ここからロマン派は始まった。 管楽器のソロでは、陰にまわったピアノの踏みしめるようなインテンポがすごい快感。 第3楽章ロンドのピアノの提示では、撓めた末のはじける音で心臓が飛び出すかと思ったほど。音量の大小ではなく、重力! 煽動するような盛り上げはしないのに自然と昂揚する。 拍手に答えてのアンコールは曲名不明。音階練習のように昇り降りる音が引いては寄せる波のように静かに続いていく。バッハの無伴奏チェロ組曲第4番の前奏曲のようにも聞こえたが、ピアノとでは響きが違いすぎて、確信が持てません。(その後、シロティ作曲「バッハ作品番号855の前奏曲のトランスクリプション ロ短調」と判明。) いずれにしても、今後の活躍に注目。 後半の田園交響曲は、あのピアノのあとでは何をしても印象には残らない。 管楽器のソリストのうまさ、弦楽器からふわりと響きが舞い上がる繊細さ、各パートが自発的に音楽を作り上げているように思えた。総力戦はせず、いつでもまわりの音を聞いて、それぞれのパートが別のパートの陰に隠れることのない、上質のアンサンブルではありました。 アンコールはドヴォルザークの弦楽セレナード、低弦のしまった音にはかないヴァイオリンの音がなつかしく響いた。次にシュトラウスのピツィカートポルカ、茶目っ気のある楽しい演奏。 新しいアイドルの誕生に満足したコンサートでした。 チェコ・プラハ管弦楽団 2005年7月10日日曜日18時開演 |