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楽譜   演奏会見聞録

05年6月4日

天満敦子ヴァイオリンリサイタル

このヴァイオリニストは前にもコンサートで聞いた。曲は覚えていない。ヴァイオリンがストラディヴァリだとパンフレットに書いてあって、艶の乗った輝く高音を期待したら、ゆったりと漂うような、それでも大型の楽器のような太い音で、こういう楽器もあるんだと納得したことは覚えている。


スポット照明の中にピアニストと登場。
1曲目のクライスラーはバッハ風の音の積み重ねを勢いと量感で大胆に聞かせたかと思うとたっぷりの泣き節で嘆いてみせる、巨匠によるロマンティックな曲という風情だった。まずはにぎにぎしいコンサートの始まり。


「作曲家」小林亜星氏を伴って登場。
小林氏の作曲と編曲によるCDを最近発売したというアナウンスがあり、プロモーションということか。
「タンゴ・ハポネス」「夕暮れ」は小林氏の曲。大正から昭和の初めのロマンと作曲家による説明があった。よくあるメロディーのよくあるひびかせかた。音楽教室がまだ学校にない時代の教室のオルガンの音の思い出。
「ねむの木の子守歌」「夏の思い出」。
「旅人の詩」は小林氏の曲。


平板な旋律に変化のないリズム。懐かしさと、人の心に潜む情念? 耳あたりのよい旋律の行間に重ーいものを詰めこんでいるように見えるが、大げさというか、空虚、こけおどし。ないものをあるように装うのか、あるように思いこもうとしているのか。手法はともかく、表現するものの実体があるのだろうか。


実体がないものをあるように見せなければ権威とか体制とかいうものが保てない、そういう意地の張り合いが、このごろの世の中を動かしている。そこまで言ってもまんざらたわごとでもなかったり。


「がんばる」だけでは評価されないところで苦労した中田や柳沢が合理的な動きで自分を表現するのを見ると(おっと、サッカーの話題です)、情念とか根性とかいうものに「?」マークをあげたい気持ちです。
こんな言い方で音楽を語るのは無粋ですが、場違いなところにいたようです。


「チゴイネルワイゼン」。


うねりの闇の奥の奥
あれはいつの日のことだったのかしら?
凍える独逸の稲妻、ぴっかり!
春夏秋冬の群れに飛び込んだ己れの頭にとど果てなん国を今日も旅行く駱駝の川流れヒマラヤの孔雀の微笑


と歌ったのは、昭和51年平競輪場駐車場での黒テント、佐藤信作「キネマと怪人」、鞍馬虎馬(ドラマ)映画監督を演じた斎藤晴彦です。
今日のヴァイオリンは、ジプシーのたゆたう旋律を深々と響かせ、テンポを思いのままに動かし、たっぷりした情感を漂わせていた。
勢いと揺さぶりのすごさは、この人の真骨頂でしょう。


後半はベートーヴェンのクロイツェルソナタ。
アレグロでのテンポの揺らし、アンダンテの滔々とした響き、夢を見ているような変奏、ベートーヴェンがロマン派の文脈で演奏されていた歴史を追体験。昼休みに iPod でフルトヴェングラーの第9交響曲を聴いている耳には、同じような資質に聞こえました。ピアニストも好調、劇的な音楽をつくりながら、目の詰んだ生地のような仕上がりです。
ベートーヴェンの聞こえない耳には、どんな音楽が響いていたのだろう。宇宙の大伽藍?


最後に、19世紀後半のルーマニアの作曲家ポルムベスクの「望郷のバラード」。CD が大ヒットしたという叙情的な曲。


アンコールには「北の宿から」。


客席から花束が渡される盛況であった。


天満敦子ヴァイオリンリサイタル
2005年6月4日土曜日 午後6時30分開演
福島市音楽堂

ヴァイオリン 天満敦子
ピアノ    吉武雅子
賛助出演   小林亜星


クライスラー「プレリュード&アレグロ」
小林亜星の作品より 日本の名曲(曲目未定)
サラサーテ「チゴイネルワイゼン」
ベートーヴェン ソナタ第9番「クロイツェル」
ポルムベスク「望郷のバラード」