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楽譜   演奏会見聞録

14年11月2日

新ダヴィッド同盟

中心に重いものが詰まって表面はフェルトのようなピアノの音が響いてきた。流れのなかで砂にみがかれた珠、質感のある黒い珠が連なっている。どこかで聴いた。バックハウスのレコードでだったか。漆器のようなまるい輝きのウィーンのピアノ。これがシューベルトの人恋しさ、せつなさだと言われれば素直に納得してしまう。この人の響きに湿気は感じなかったけれども。
チェロはバリトンの優しさを見せたり、ドスを効かせたバスの太さを見せたり、テノールのように軽やかだったり、変幻自在、妖怪のようなチェロ。なんでも弾ける人がシューベルトの感情の起伏をひたすら追っている。
さやかな音、と思いついてなぜこの言葉がと思ったら、奏者の名前だったヴァイオリン。一本の金属の糸を馬の尻尾が擦っているだけと言えばそれだけの楽器、一筋の音の糸が伸びていくだけとなのにそれに震わされた空気にどこからか音楽が乗ってくる。ミューズが宿っている。
新ダヴィッド同盟、の名のとおりシューマンの時代の浪漫の大輪にむせかえるような第一楽章。昔ばなし、遠くなつかしい思い出の第二楽章。楽しげにじゃれ合う第三楽章。
狂ったように踏み踊る第四楽章。

コダーイ、民俗という言葉を思いついたが、どうやら英雄の歴史ではない、民衆の歴史。
第二楽章アダージョでは夜想というような落ち着いた節も。
第三楽章、ペトルーシュカと親戚のような節も。

ブラームス。冒頭から鬼神が乗り移ったような熱気に覆われて、そんなに飛ばしちゃいけないと心配したほどで、バランスが取れないところもあったが、エネルギーと重さにあふれて、ブラームスだものなと納得。
第二楽章、ヴィオラの悲痛な呼びかけにさやかなヴァイオリンが答えるところで胸が締めつけられるよう。
重機関砲の連射のはざまにこぼれるような旋律をヴィオラが歌うブラームス。磯村和英の眠そうな目に光が走ると若葉に風がよせたように光がざわめいていた。

アンコールのドヴォルザーク作品81第三楽章スケルツォにうっとり。心浮き立つメロディに。トリオのところでヴィオラがとってもいい響きの片鱗を見せると、ヴァイオリンが追従し、チェロと第二ヴァイオリンがピツィカート、ピアノは夢見るよう。こういうミドル・ウエイトの曲が聴きたいなと思ったが、きっと大多数は熱演が聴きたいんだろうな、と民主主義と資本の論理をうらんで。

水戸の街は初めてではないはず、でもずいぶん昔のことで、歩くのが新鮮だったし、芸術館の塔を遠くから望むのは楽しかった。居心地の良さそうな街、来てよかった。何より、こういう演奏会を企画してくれる人のつながりが嬉しい。ここだけではないはず、とあちこち出かけてみたい気にさせてくれるホールでした。

11月2日日曜日16時開演
水戸芸術館コンサートホール
水戸芸術館専属楽団 新ダヴィッド同盟演奏会

ヴァイオリン 庄司紗矢香
ヴァイオリン 佐藤俊介
ヴィオラ 磯村和英
チェロ クライヴ・グリーンスミス
ピアノ 小菅優

シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番変ロ長調 D898
コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 作品7
ブラームス:ピアノ五重奏曲ヘ短調 作品34