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楽譜   演奏会見聞録

07年11月10日

リヨン管弦楽団

牧神の午後への前奏曲。フルートがソロのパートをはじめると、木管が寄り添い、弦も追従し、音色の混ざり合いが刻々と変化しては移ろっていく。いったん区切りが付くと、またソロのパートにほかの楽器が寄り添っていく。
その様子に渡り鳥の飛行を思い浮かべた。群れのなかから一羽が突出すると近くの仲間が追いかけカギ型の小編隊ができ、やがて全体の群れのなかにのみ込まれていく。また別の一羽を先頭に上や下、斜めと、波のように別れては集まり、しかし、人の目には見えない空路に添って集団が渡っていく。
神話の時代の夏の午後、半人半獣の牧神が夢見ている・・という詩に触発された曲です。この日の演奏では、雰囲気もありましたが、それよりも音の構造が見えてきたのは、やはり音楽が生まれるコンサートホールという現場にいたからでしょうか。

さて、今日のお楽しみ、ラヴェルのピアノ協奏曲。
鞭がピシッと鳴らされ試合開始、にぎやかな響きが交錯する、楽しい第1楽章。光と色、香りが競争しているよう。
打って変わって気高い雰囲気がひろがる第2楽章アダージョ・アッサイ。さっきから香っていたどなたかのコロンのせいではない。
先ほどのドビュッシーにも共通することだが、古代への憧れだろうか、神秘的なような、懐かしいような気分。ロマン派の暗い情念の呪縛から離れて、新しい地平を目指したんだ。頭でっかちではない、もっと広い場所に。でも情念から離れたわけではないようだ。神話の時代を憧れても、その時代に生きることはできないのだから。この近代の情念というのがこの日の収穫。精緻な仕上がりと緊張の持続。
トランペットと小太鼓に目を覚まされる第3楽章、オーケストラの間をぬってピアノの歯切れのよい音が高く舞い上がる。お祭りのような賑わいのなかで、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさ。どうやって音符を選ぶとこんな響きになるのだろうか。魔術師ラヴェル。

ピアニストのアンコールは、古風なメヌエット Menuet Antique。アンティークは今日の前半のテーマのようです。
意外な音の動きばかり(教会旋法というそうです)なのに懐かしさを感じるわかりやすいメロディー、つんとすました感じなのになぜか親しみやすい。
ラヴェルの協奏曲ではホールのせいかピアノの音が隠れてしまいがちでしたが、ソロの曲ではよく聞こえます。少し乾いた感じで緊迫感を持たせるような演奏でした。

さて展覧会の絵。
レコードではよく聴きましたが、最近はとんと。コンサートでも聴いたことがありますが、何十年か昔のこと。
見慣れない楽器がたくさん並び、タムタム(銅鑼)、鉄琴、木琴、チェレスタ、そのほか。音響を楽しむというか、娯楽に専念しました。
ムソルグスキーのピアノ曲は単色の風景がひろがっていましたが、ラヴェルの編曲は色や光が入れ替わり立ち替わり、新型テレビのコマーシャル映像のようです。
最後の盛り上がりのなかでシンバル奏者がくしゃみをしたのが見えました。楽員たちも演奏旅行のなかでリラックスしていたようでした。

このオーケストラの福島公演は94年6月(クリヴィヌ指揮)に次いで二度目のようです。聞いた記憶がないので、きっと家事に紛れて出かける余裕がなかったのでしょう。こちらに余裕ができたのに聞きたい音楽会があまりない。皮肉なものです。

富士通コンサートシリーズ
フランス国立リヨン管弦楽団
2007年11月10日土曜日15時開演
福島市音楽堂。

フランス国立リヨン管弦楽団
指揮:準・メルクル
ピアノ:ジャン・フレデリック

ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調
ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編)