小倉寺村ロゴ


楽譜   演奏会見聞録

03年11月18日

テリエ・ミケルセン:指揮
ラトヴィア国立交響楽団
ミッシャ・マイスキー:チェロ

ミーシャ・マイスキーの人気で入場口は大混雑。
席に着けば近くの席で奥様方がネギみそがどうのこうのと井戸端会議、コンサートに活気があるのはいいことだと、ひたすらプログラムの勉強に集中。

ノルウェー出身の指揮者登場、恰幅のいい体型の赤ら顔、「歌え! フィッシャーマン」という映画に出てきた人たちに似て、明るい人柄のようだ。

ヴァスクス「ヴィアトーレ」
アンゲロプロス監督の映画に使われるようなミニマルミュージックと情緒綿々たる低弦の豊かな響きの交錯。静かに始まり、響きが豊かな高揚部を経て、登って来た道を下りてゆき、潮が引くように静かに終わる流れが気持ちよい曲です。さざ波のフレーズが第1ヴァイオリンから第2ヴァイオリン、ヴィオラと引き継がれ、また逆に戻っていくというシンメトリー、淡々としたなかに心引きずられるものがある。感傷が胸を打ちます。
ヴァスクスは1946年生まれのラトヴィアの作曲家で、2001年の作品。エストニアの作曲家アルヴォ・ペルトに憧れて書いた曲とのこと。天上の何かに捧げるようなペルトの音楽とくらべると、人の世界の抒情が強く感じられるところが印象的でした。バイオリニストのクレーメルのCDのほか何枚かヴァスクス作品のCDが出ているようなので、そのうち別の曲も聴いてみましょう。

ドヴォルザーク「チェロ協奏曲ロ短調」
シドニーのオペラハウスの屋根のようなふくらみが肩や背、裾にある銀のブラウスと黒のパンタロンでソリスト登場。マイスキーはラトヴィア共和国首都リガの出身で、母国のオーケストラとの競演になる。
ソリストはレコードを聴いているような完ぺきな名演。圧倒的な指の強さ、正確なポジショニング・音程。響きの豊かさ。柔らかいアタックと音のふくらませ方。オーケストラの楽員も必死で聞いている。
オーケストラまで聴いている余裕がないが、ホルンの音が甘くなく、自然に広がっているのを好感、バランスの悪いところも多いが、フレーズをきちんと聴かせてくれている。
マイスキー氏のチェロの技巧は冴え、「抜けば玉散る氷の刃」「丁々発止」という言葉を思い出しながら、感心して聞いていたが、いつしか遠くから聞こえてくるものを探し始めていた。技術は何のため、みんなの目をくらまし拍手喝采させるため? などと思い始めたころ、ドヴォルザークも第3楽章の半ば過ぎ、テンポがゆったりし、管楽器との響き交わしのあと、ソリストとヴァイオリンのトップとが掛け合いを始める。ああ、こんなところもあったんだ、ちょっと醒めたから気がついたけれども、いつもはレコードを聴いても耳が行かないところのようです。そういえばこの曲をコンサートで聴くのは初めて。ここのところでゆったりとして心がほぐれ、彼方の星が光りだしてくるのが見え、しばらく漂っていた。ああこれが遠くから来るものか。
観客は喜び、ブラヴォーの声、福島のお客さんが協奏曲のソリストを拍手で何度も呼んだのは今まで見たことがない。何度もステージに呼び出され、アンコールが始まる。バッハ無伴奏チェロ組曲第3番のサラバンド。自分が練習してたどたどしくやっとの思いで引いている同じ曲が、オーケストラが闇に沈むスポットライトにソリストがうかび、バッハの時代に迷い込んだような気分、心はただならぬ状態になってしまう。
皆さん満足されたのか、ソリストの誘いでオーケストラが引き揚げたからか、アンコールはこの1曲のみで終わり。オーケストラが退場しても拍手が続いていれば、ソリストがアンコールにまた出てくるということもあるのだけれど、みんなわかっていなかったみたい。それとも終演の時間が遅くなるのを心配していたか。
ちなみに1日前の11月17日東京芸術劇場でのラトヴィア国立交響楽団公演、同じドヴォルザークのチェロ協奏曲のあとのアンコールは、バッハの無伴奏チェロ組曲第2番より「プレリュード」、続いて「鳥の歌」の2曲でした。

ベートーヴェン「交響曲第6番 田園」
野放図にも思える大きい低弦の音、ロシア人は低音がお好き? それともノルウェー出身の指揮者の好み? 音の豊かさが楽天的に響く。たっぷり鳴らさせてくれるストレスのたまらない音楽。明るく楽天的な音の心がけ。管も明るく、ホルンがとっても気持ちよい。
最初から、オーケストラがブラームスのような音でなく、ワグナーのように響いて聞こえたのはこもらない音づくりだからか。田園交響曲の挿絵に出てくる風景(ウィーン風のしまった音楽のイメージ)ではなく、海の近くの豊かな沃土の実りといった感じ。田園交響曲の楽しさはたっぷり現れていた。

アンコール
ヤニス・メデンス アリア
Janis Medins (1890-1966) : Aria From Symphonic Suite No. 1
ハリウッド大作映画のサウンドトラックのような情緒豊かな曲。ソロチェロがたっぷりとした音で、ヴァイオリンと掛け合う。チェロはかなりの古強者と見た。
ラトビアの作曲家の曲ですが、遠くの親戚と会ったような懐かしい気持ちにさせてくれます。

グリーグ ペールギュント第1組曲よりアニトラの踊り
ロマンチックなワルツが始まり、うきうきしました。指揮者の母国ノルウェーの作曲家グリーグの作品で締めくくり。
ここでもまた古強者のチェロが活躍、バランスが崩れる手前のところまでメロディーを強調し、異国風の情緒を色濃く聴かせてくれた。オーケストラはコンサートホールで聴くのが一番と思った。
ラトヴィアはバルト三国のひとつで、バルト海を挟んでフィンランド、ここと接するのがノルウェーという地理で、これがわかるとそんなに離れた風土でもない。

開演7時、終演9時25分。味わいたっぷり、満足の一晩でした。

2003年11月18日火曜日19時開演
福島市音楽堂大ホール
テリエ・ミケルセン:指揮
ラトヴィア国立交響楽団
ミッシャ・マイスキー:チェロ

ヴァスクス「ヴィアトーレ」
ドヴォルザーク「チェロ協奏曲ロ短調作品104」
ベートーヴェン「交響曲第6番ヘ長調作品68 田園」