小倉寺村ロゴ


楽譜   演奏会見聞録

16年10月8日

弘源寺木管五重奏団

秋祭りは雨の中。この街に若い人がこんなにいたのかと露店をかすめて会場へと。

アリュ一 木管五重奏曲
開巻早々おもちゃ箱のような楽しさ、万華鏡を通った光が目の中に散らばっていくよう。リズムも歯切れが良くて、あ、パントマイム。ストラヴィンスキーのバレエみたい。アンダンテ楽章ではファゴットがあくびをするような声、お昼寝ですか、やわらかな光のこういう響きのときはバッソンという名前がぴったり。
快速スケルツォはピエロのワルツ。ホルンがおどけたり。
ロシアの舟歌のアダージオ。オーボエのふしで「たま」の「ロシヤのパン」という曲を思い出しました。ご存知ですか。間抜けなような突き抜けたような。このアダージオも時を超えてどこかもうひとつの場所に連れて行ってくれました。
波頭の光がきらめいてフルートはさえざえと順風を。最後の活気のあるアレグロには森の動物たちのうごめき、人間が消えた後のような。有機生命体、ヤナーチェクの歌劇に出てくる森の気配ってこんなだよなあ。
1955年フランス木管五重奏団(ランパル、ピエルロ、ランスロ、クルジエ、オンニュ)のために書かれた。(CDには1953年録音とあります。)60年前のパリに生きていたかった。
クロード・アリュー(1903-90)、日本語版 Wikipedia 「ポール・デュカス」の項、教え子の写真の中でお姿がのぞけます。

ダンツィ 木管五重奏曲変ロ長調 Op.56 No.1
モーツァルトの曲って生気があふれているじゃないですか。あの人以外にはあんまり感じられないすっとぼけたような明るさ。楽器に力を与えるのはきっとそんなものなんだ。古典派らしい勇気を与えられる力強い響き。モーツァルトはパリの音楽を知っていたから他の作曲家と響きが違っていたのかな。ところでダンツィはどこの人? ドイツ生まれ、ベートーヴェンの同時代人。
アンダンテはコン・モート、オペラのパストラルのような。どういう筋書きなんだ。人間関係? なんだか深い心持ちが歌われているような。
メヌエットの楽しいなかで、演奏者たちの音が実のあるものになっていることに気がついた。響きが強いし。お年頃から余裕ができて楽器が良くなった? 練習時間が取れるようになった? 思いが深くなった?
最後のアレグレット、ベートーヴェンの第七交響曲のように舞踏の楽しさのようなものを感じた。生気揚々。

後半はドビュッシー。
亜麻色の髪の乙女 クラリネットが導入、麦畑でしょうか、いや草原。風が吹いているようです。自信に溢れるフルートのひびきが前に出てきます、肉感的な。え! パユみたい。
ゴリウォーグのケークウォーク 祭りの賑わい。ペトルーシュカだ、ストラヴィンスキーの。いや西洋じゃなくても子供のころの祭りの記憶がこんな光のなか。
アラベスク ホ長調 クラリネットのアルペッジョの気持ちよさ、オーボエのきらめきがあったかと思うとホルンの雄大な歌、下降音階に惹きこまれて。演奏前の三連符と二連符のポリリズム、アラビア風のという解説には実感はなかったけれども、東の空の夜明けのような赤光が印象的。
小組曲は四曲。
小舟にて/Enbateau クラリネットの波のきらめき、やわらくて夕凪のよう。風に乗ってゆっくりと旋回する。ピアノで聴くと逆光の真昼の光だったような、今日は午後の赤みを帯びた光。船も大型、雄大だなあ、たっぷりとして磐石の航海。
行列/Cortege メーデーの行進かしら、共感と友愛。フルートのきらめき、バッソン(ファゴットのことですがこの曲ではそういう音がしました)がしっかりと根元のところをおさえて。
メヌエット/Menuet この舞曲がいにしえの風景だということに気づかされて、遠いあこがれ、そのころのフランスって行き詰まっていたのかしら。
バレエ/Ballet 舞台をある人は右へ、ある人は左へ横切っては跳び回る。細かなステップ。布がひらめく。高い跳躍。

アンコールはボロディン、韃靼人の踊り。砂漠の向こうから隊商の歌声が聞こえてくる。最初は途切れ途切れ、そしてはっきりと、オーボエの歌が聞こえてくる。
もう一曲は「ブラジルの水彩画」アリー・バロッソ作曲。ディズニーの…と説明がありましたが、知りませんでした。クラリネットの音にビールを勧められたような。あのメロディ。ホルンが今日は力強い。

やっぱり出かけてよかった。
身のある(実のある)音楽が聴きたいぞ。有名ピアニストのグリーグに実がないとは思わないけれども、どうも頭が冒険をしたがっているみたいだ。提示されるなにかを受け止めるより、提示されたかたちの隙間から透けて見えるもの、そこを覗くのがわたしの楽しみのようだ。この楽団の演奏会ではいつも何かしらあって、この日もその何かしらが楽しかった。

10月8日土曜日14時開演
福島テルサ FTホール
白鹿山弘源寺木管五重奏団第20回室内楽演奏会

白鹿山弘源寺木管五重奏団
フルート 宮崎真
オーボエ 早水楼蘭
クラリネット 添田麻紀子
ホルン 湯田公夫
ファゴット 高木昭道

アリュ一 木管五重奏曲
I. Allegro II. Andante III. Allegro scherzando IV. Adagio V. Allegro vivace
ダンツィ 木管五重奏曲変ロ長調 Op.56 No.1
I. Allegretto II. Andante con moto III. Menuetto.Allegretto IV. Allegretto
休憩
ドビュッシー 前奏曲集第1集より第8曲 亜麻色の髪の乙女
ドビュッシー 子供の領分より第6曲 ゴリウォーグのケークウォーク
ドビュッシー 2つのアラベスクより第1番ホ長調
ドビュッシー 小組曲(神田實明による木管五重奏編)
 1 小舟にて 2 行列 3 メヌエット 4 バレエ