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楽譜   演奏会見聞録

15年6月6日

弘源寺木管五重奏団

サン=サーンス。キラキラしたピアノとか、合奏のさっそうとした動きを耳にすると思い出すのは「動物の謝肉祭」。胸のすくような、くすぐったいような気持ちになります。
華やかなピアノや、管楽器が跳ね上がり舞い上がるにぎにぎしい音の出だしに、今日もニヤニヤしてしまいました。皮肉を言っても憎まれない人がいますが、この人もそんなようです。
フルートに出たのがロシアの歌でしょうか。舟歌かしら。ゆったりしています。クラリネットのアルペッジョが気持ちいい。フルートが上昇してオーボエが下降すると蝶々が舞うよう。これがデンマーク、子供の遊び歌かな。舟歌がオーボエからクラリネットに歌い継がれると旋律の強さに気がつきます。労働の楽しみ? 声を合わせて歌う教会の讃歌のような。
「デンマークとロシアの歌によるカプリス」という題です。フルート・オーボエ・クラリネット・ピアノの四重奏。サン=サーンスのロシアへの演奏旅行のときの独奏者たちの構成からこういう編成になったと説明がありました。デンマークが出てくるのは当時のロシア王妃がデンマークから嫁いでいたから。いろいろ勉強になりますねえ。

苦手のヒンデミット、どうやって聴こうかしらと。
音を追っていけば景色らしいものが見えてくるけれども、展開部に入ると風景が濁りはじめてズブズブドロドロと融解をはじめるような。光がか細くなって夕方のような幕切れ。やっぱり苦手だ。

ラヴェル「クープランの墓」。「墓」と訳される tombeau には、故人を偲ぶ、讃える、という含みがあるということだそうです。作曲家自身も従軍した(輸送隊の運転手:兵站=後方支援! というのは本で読んで知っていました)第一次世界大戦の戦士達への追悼として書かれ、それぞれ特定の個人に捧げられた、ピアノ曲の管弦楽版の管楽用編曲、リゴードンはプロヴァンスの舞曲、と説明がありました。
ここでホルンが加わって団員五人が揃いました。
搖れるざわめき、蠢動。有機というのか心の流れのようなものに乗って音が漂っていく。ファゴットのコボコボいう音がとっても気持ちよくて、この作曲家の世界に引き込まれる。序曲でした。
フルートが金色の節をゆらゆらさせてフーガの始まり。それぞれの楽器の響きがもっと高く伸びていったらどんなに素敵だろうと想像しているのも楽しみ。
オーボエが舞い手となってメヌエット。手の線、足の線、裾の線、やわらかく揺れる。オーボエを見ていると、息を続けるのがたいへんそう。人間が呼吸するというのはあたりまえなことだけれども、道具である楽器が人を魅惑するのは、身体から流れ出した息のぬくもりが自分と同じだと思うせいかしら。息の限りを尽くして息を止めたときに見える風景、光が飛んだような異世界、これは彼岸? と妄想したりします。
どこかで聞いた旋律、リゴードン。ストラヴィンスキーのような野生、原初の叫び、人の心から深いところからの呻きのようにも聞こえます。洞窟の中に射し込む一条の光。

ドヴォルザーク、スラヴ舞曲第8番ト短調。飛び跳ねるスカートの裾、弾くような生きの良さ、切れの良さ。
スラヴ舞曲第10番ホ短調。後ろ髪引かれるよう、切ない。人情の人、プラハの北約30km、北ボヘミアのネラホゼヴェス村の肉屋の息子、近しい人のような感じがします。
ホルンに深いところをえぐられ、ファゴットにお腹を撫でられて、クラリネットにやさしく声をかけられて。レコードで聴くオーケストラのようにスマートでなくて、あったかい人肌の温もり。

管楽セレナードニ短調。タララリララ、とファゴットが何度か聴いた旋律を思い出させてくれる。土臭いと説明があったが、人が集まったときの力というものをわたしたちの時代は失った。そういう映画もない、物語もない。社会の力があったことの証ではないか、ロマン派音楽の熱。モデラート・クアジ・マルシア、ゆっくりとした行進。
第二楽章、メヌエット。クラリネットの歌にピアノが合いの手を入れ、フルートとオーボエがつないでいく。たっぷりの温泉の中で揺られるような心地よさ。トリオでは土が揺れて、大地が歌い始めるよう。ホルンの信号。
第三楽章、アンダンテ・コン・モート。野にひろがるクラリネットの歌がオーボエからホルンに歌い継がれる。歌い合う、歌の共和国。ホルンに鼓舞されて行列は前進する。人の息が人の力を呼ぶ。
フィナーレはアレグロ・モルト。クラリネットのアルペッジョからの肉弾戦。第一楽章の行進が戻る。旗のもとに集まろう、"Rally 'round the Flag" はライ・クーダの歌で知りましたが、南北戦争当時の合衆国がなぜか思い出されました。

アンコールにドヴォルザークのユモレスク。
続いてジャン・フランセ、六重奏曲『恋人たちのやすらぎの時間 L'Heure du berger』から第3曲「せっかちな若者たち Les petits nerveux」。ビア・ホールの恋人たちなんだそうです。うきうきわくわく、クラクラ。
調べてみたら時々は演奏されている曲のようです。I.しゃれた老人 Les Vieux Beaux II.ピンナップ・ガール Pin-up Girls III.神経質な子供 Les Petits Nerveux(「せっかちな若者たち」は名訳ですね。)。また新しい音楽を教えてもらいました。

どこの子かしら、アンコールで花を持って出てきた男の子がはしゃいで可愛かった。

6月6日土曜日14時開演
福島テルサ FTホール
白鹿山弘源寺木管五重奏団第18回室内楽演奏会

白鹿山弘源寺木管五重奏団
フルート 宮崎真
オーボエ 早水楼蘭
クラリネット 添田麻紀子
ホルン 湯田公夫
ファゴット 高木昭道

ピアノ 鈴木桂子

サン=サーンス:デンマークとロシアの歌によるカプリス Op.79
ヒンデミット:クラリネットとピアノのためのソナタ第1楽章
ラヴェル(ジョーンズ編):クープランの墓
  Le tombeau de Couperin I. Pre(')lude II. Fugue Ill. Menuet IV. Rigaudon
ドヴォルザーク(ガブラー編):スラヴ舞曲第8番ト短調Op.46-8
ドヴォルザーク(近衛秀健編):スラヴ舞曲第10番ホ短調Op.72-2
ドヴォルザーク(レヒトマン編):管楽セレナードニ短調Op.47 B.77