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楽譜   演奏会見聞録

13年1月6日

弘源寺木管五重奏団

こんな寒い時期に病み上がりの身で出かけられるだろうかと案じていたものの、「ルネ王の暖炉」を聴くことができるとあっては、虫が収まらない。雪が凍って残っていようが吾妻降ろしが冷たかろうが、会場は穏やかだろうと、いそいそとお出かけ。

「主よ、人の望みの喜びよ」、まずは迷った羊として温かく出迎えられた気分。オーボエの音が懐かしく響くのは、久しぶりの演奏会だからかしら。それぞれの楽器の個性が競い合って、もとのオーケストラ付き合唱の親しみに満ちた平和な表情が再現される。

ファゴットの滑稽なフレーズで始まる「ユモレスク」、それぞれが口々にほら話を言い合うようなのどかな音楽。馬鹿話を聞いているうちに、これだから生きているのは楽しいんだなあと、思うような音楽。
ツェムリンスキーは好奇心旺盛な頃に何度か聴いたけれども、皮肉な、というか、言葉が先行するような生硬な印象が残っていて、歌曲集のCDを手に入れたりもしたのだけれど、何となく遠ざけていた。
1939年、作曲者晩年の作、と紹介があった。ニュー・ヨーク・シティでの亡命生活は恵まれたものではなかったようなのに、雪の降る町で見る南国の夢のような温かさに満ちた音楽。

ここで楽器紹介の一幕。ファゴットに興味津々、「ファンタジア」やミッキーマウス、と説明があって、デュカス「魔法使いの弟子」のフレーズを吹いてみせてくれた。熊倉一雄の朗読入りのレコードを家族で聴いていたことを思い出した。

ダリウス・ミヨー「ルネ王の暖炉 La chemine(')e du roi Rene(')」、暖炉とはストウヴのことではなく、エクス=アン=プロヴァンスの冬の間もよく日が当たって風が当たらず暖かい場所、ルネ王のお気に入り、ムーサングラードのことだそうな。
Corte(`)ge 行列 、Aubade 朝の歌、Jongleurs 吟遊詩人、La maousinglade ムーサングラード、Joutes sur l'Arc アルク川の競技、Chasse a(`) Valabre ヴァラブルの狩り、Madrigal nocturne 夜想曲、の7曲からなる組曲。
賑やかな朝の歌が聞こえ、オーボエとファゴットの競い合いは軽業師たちのよう。人々のゆっくりした対話が聞こえてきて、穏やかなムーサングラードという土地に暮らしてみたいと思う。
こんな季節に暖かい地方の暮らしにあこがれて、この演奏会の「めあて」はそういうことだったのかなあ。これでもかと暖めてくれる「夜想曲」。

休憩の後は、ニュー・イヤー・コンサートというような構成。
「春の声」、このアンサンブルではあまり活躍どころのないホルンがここでは活発に、クラリネットにちょっかいを出したりして、見ていても楽しい。いつものオーケストラをやわらかい陽射しとすると、木管の編曲は活気が表に出て、草木が萌え出るような感じ。
「サウンド・オブ・ミュージック」から主題曲・ドレミのうた・エーデルワイス・すべての山に登れ。
日本の歌のメドレーで、花いちもんめ・浜辺の歌・村祭り・ふるさと。
みんなで楽しもうという編曲。ほら楽しいでしょうと言われても、この曲から何を見つければいいんだろう、と思ったことはやっぱり記録しておこう。
アンコール「クラップフェンの森で」、ホルンとクラリネットが持ち替えで鳥の鳴き声の笛を。そして「上を向いて歩こう」。

演奏会の前半で新しい世界が広がって、演奏会に出かけた甲斐があった。後半は、いまの街が必要としているものを楽士たちはこう考えている、と理解しておくことにしよう。言葉で言えばわかることを演奏会には求めていない、というのは自分にとっての確認。

1月6日日曜日14時開演
福島テルサFTホール
白鹿山弘源寺木管五重奏団第14回室内楽演奏会

白鹿山弘源寺木管五重奏団
フルート 宮崎真
オーボエ 早水楼蘭
クラリネット 添田麻紀子
ホルン 湯田公夫
ファゴット 高木昭道

J.S.バッハ:主よ、人の望みの喜びよ
ツェムリンスキー:木管五重奏のためのユモレスク(ロンド)
--楽器紹介--
D.ミヨー:組曲「ルネ王の暖炉」作品205
ヨハン・シュトラウス2世:ワルツ《春の声》
リチャード・ロジャース:「サウンド・オブ・ミュージック」から
日本の歌メドレー