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楽譜   演奏会見聞録

10年9月4日

弘源寺木管五重奏団

最初はバッハ。
原曲はカンタータ第208番 BWV 208「楽しき狩こそわが悦び」第9曲、ソプラノのアリア。ブロックフレーテが歌に寄り添うおだやかな曲です。
羊らは安けく草はむ、/良き牧者のありて見守るところ。/統べ治むる者 よく治むるところ、/安息と平和の影は著けく、/国々をうるおす幸の光ぞ さやけし。(杉山好訳)
毎朝の目覚ましラジオ、NHK-FM「バロックの森」の前身「あさのバロック」のテーマ音楽だった(その前の「バロック音楽のたのしみ」のときはテレマン「忠実な羊飼い」解説皆川達夫!!)。

木管五重奏のバッハ。やわらかくておだやかな、昔のフランス録音のレコードみたいなバッハを予想したら、大きく豊かな響きで意外だった。大きな呼吸で潮の満ち干のようにバッハの音楽が流れていく。それぞれの奏者の表情がホール全体に伝わってくる。

2曲目はモーツァルト。28歳の円熟期の作品。
「やさしいおねいさん」の行き届くピアノの波に乗ってふくよかな響きがホールに溶け込んでいく第1楽章。
2楽章になると、くっきりと線を描くオーボエ、篠竹のように清潔な響きのクラリネット、ときには悠然とときには決然としたホルン、瞑想するようにじっと土台を支えるファゴット、各奏者の持ち味が引き出されてくる。このラルゲット楽章にはモーツァルトが覗いた深淵が垣間見えるようだ。KV515やKV516の弦楽五重奏曲のように気がつくと心にそっと寄り添っている。
愉快に弾むアレグレットの第3楽章。

ベートーヴェン。
第1楽章助奏部グラーヴェ。ホルンの信号のような強い響きが心を打つ。オペラのレチタティーヴォのようにそれぞれの楽器が自分の存在を表に打ち出してくる。主部に入るとピアノがコロラトゥーロのようにきらきらとした音で活躍する。メロディーで歌うというのではなく動機主体の構成で、あの時代はこれが音楽界の新機軸だったのだろう。革新の意気上がるベートーヴェン。ピアノ協奏曲のような響きは演奏者への要求も高く、ホルン、ファゴットの熱演に心を動かされた。
第2楽章、アンダンテ・カンタービレ。オーボエのメロディーが颯爽と流れ、ファゴットもなめらかに歌う。晴朗なホルンがホールに響きわたる、爽快!
終楽章、ロンド。作曲家の表出の意欲は舞踊の形式に盛り込めないほど。吹き上げるような思いが伝わってきた。

アンコールはピアニストによるショパンのノクターン、木管五重奏によるヨハン・シュトラウス二世「観光列車」「エジプト行進曲」、ピアノとの六重奏で「夕焼け小焼け」。

やっぱり来てよかった2年ぶりの弘源寺木管五重奏団。おととしの11回演奏会以来当地での演奏会はなかったようですが。演奏者それぞれが多忙な年代にかかり活動がたいへんになってきている様子がプログラムからにじんできた。

木管五重奏というなかなか、というよりも、室内楽を聴くことのできない地方都市で楽しみを共有できる貴重な団体、活動の継続を願っています。演奏会に出向くことでしか応援できないのですが。


弘源寺木管五重奏団第13回室内楽演奏会
2010年9月4日土曜日14時開演
福島市音楽堂大ホール

弘源寺木管五重奏団
フルート:宮崎真
オーボエ:早水楼蘭
ホルン:湯田公夫
ファゴット:高木昭道
クラリネット:添田麻紀子

ピアノ:鈴木桂子

バッハ:羊は安らかに草を食(は)み
モーツァルト:ピアノと管楽のための五重奏曲変ホ長調K452
ベートーヴェン:ピアノと管楽のための五重奏曲変ホ長調作品16