演奏会見聞録
03年9月23日 中庭コンサート |
気象台の観測で14時の気温19.6度。急に涼しくなった街に沖縄からのお客様。 古謝美佐子、唄者(うたしゃー-歌手の沖縄での呼び名)。坂本龍一の87年のアルバム NEO GEO 、89年のアルバム BEAUTY で沖縄の節回しが気に入って、それ以来ネーネーズの結成、解散、単独活動と注目していました。生の声を初めて聞けます。 いつものコンサートホールも、中庭の木立の間での唄会(うたかい-コンサートの沖縄での呼び名)という非日常に、気もそぞろに開会を待っていると、どこからか声が聞こえ、歌いながらのご登場。黒地に赤襟の宮廷着、髷を結ってのステージの始まり。 三線-さんしん-をかかえ、バラードといえばいいのか、ゆっくりしたテンポの曲を節の最後をまわして歌うけれども、無理のないひねりかたで、声がたっぷり楽しめる。 「アイルランドやまやま」、チーフタンズと演奏したと紹介された曲は「マウンテン・オブ・ポメロイ」という曲の沖縄名かもしれません。アイルランドの伝統的な曲調に彼女の懐かしい声がなじんで空に抜けていく。 落下傘バァーイ(迷彩色落下傘張り三線-戦後の沖縄で材料の不足から落下傘の生地を腹に張った)に持ち替えての「二見情話」「黒い雨」、訥々とした語りが人柄を語り、キーボード奏者兼「通訳」の夫君佐原一哉氏に説明を補わせながら、敗戦後・占領期・そして最近の台風まで、沖縄に住んでいる人たちの生活と常識を歌で教えてくれました。 休憩後、うちなーぐち(沖縄語)での Amazing Grace でやはり歌いながら登場。髷をほどいてゆったりした衣装での第2部。 「あやぐ」という曲ではマイクロフォンを置き、言葉通りの生の演奏で、ちょうど囀り始めた小鳥の声は島の生活はかくやと思うほどでした。グレゴリオ聖歌のような音の上げ下げ(音楽用語でメリスマ)にカーブをかけて勢いをつけるというゆったりしたスピード感。言葉にすると矛盾していますが、歌われるとこれが快感です。生の声でこの美しさが映えました。 後半3曲目は喜納昌吉の名曲「花」。曲の途中で気持ちが開いた様子でマイクロフォンを置いてしばらく響きを味わっていました。 「安里屋ユンタ」で冷えてきた会場を湧かせ、孫の誕生に作った「童神(わらびがみ)」。4歳のときに亡くなった父親を夢に見たこともなかったが、母親の死後初めて父の夢を見た。夢のなかの父が母に向かって曰く「もういいよ。あんたはこの子の心配しなくても。さあ行こう。」という話をして最後の曲、「天架きる橋」をしっとりと歌う。 アンコールにこたえて「豊年音頭」で観客を踊らせ、あまり歌うと次の機会に来てくれなくなると話しながら、ドヴォルザークの新世界交響曲のメロディーにうちなーぐちの詩をつけた「家路」。読谷町の自宅で聞こえる公民館の5時の音楽と紹介、故郷に根付いている人はしあわせです。 家路
友(どぅし)と連(ち)りてぃ あぶし道
上ぼる月(ちち)や 山の端(ふあ)に
浜ぬ砂(しな)や 踏みあぐでぃ 友と連れだつ/あぜ道/畑の匂いが/我が友達/綺麗な色の/赤花よ/匂いの香ばしさ/百合の花/家に戻る/この嬉しさ/母ちゃんの待つ/我が家です 山の端に/上る月よ/共に行こう/私の友よ/南の風が/しなやかに/草葉畑に/うちなびき/煙上がる/この嬉しさ/母ちゃんの待つ/我が家です 浜の砂は/踏み難し/波の音が/私の友達/浜のヤドカリ/砂枕/流れ雲が/月隠す/闇が迫り/また明日/母ちゃん待ってる/我が家です 開演から2時間30分、たっぷり話を聞かせてもらい、いい声を聞かせてもらいました。観客約150名、みなさん満足できたようでした。
03年9月23日秋分の日 古謝美佐子 唄・三線 |