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楽譜   演奏会見聞録

03年6月21日

小林研一郎指揮
ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団

昨日のI市ではマーラーの5番だったのに、今日はベートーヴェンの5番運命。会場に向かう道すがらおばさんたちに出会うたびにため息が出た。オーケストラならにぎわう僕らの町。

今日のプログラムはリスト-メンデルスゾーン-ベートーヴェン。パンフレットによればリストの前奏曲は、生は死の前では前奏曲であるという詩に基づく曲だとのこと。死の影に彩られた生の躍動。そしてメンデルスゾーンは天国。最後のベートーヴェンは運命=死に立ち向かう生の勝利。小林研一郎音楽監督のシナリオは明快だ。マーラーも死に彩られた運命を歌っている、きっと、彼の主旋律はここにあるのだろう。20年ほど前に日本フィルハーモニーのコンサートでチャイコフスキーの4番の交響曲がつぼにはまって聴衆の感動を誘ったのを思い出した。死と裏腹にある生の衝動。

ワーグナーの音型かと錯覚する部分がいくつもあったリストの「前奏曲」。ワーグナーの独創とされているものも多くはリストに負っている。ワーグナーは素材を使うのがうまいだけの商売人・山師だったのかと思わせるようなリストのアイデアのすばらしさだった。オーケストラの実力が発揮される。地面にしっかりと基礎を置いた弦。華やかさはないがくっきりと明確な響きの木管・金管、堅実なタイミングでつぼを押さえた太鼓。19世紀前半浪漫派文学の波瀾万丈の楽しみ。

メンデルスゾーンはところどころ雲に隠れたが、「天国」に免じて許す。バイオリンは重奏では冴えにかけるところもあったが魅力的な音だった。天国のような音楽を書いたモーツァルトとは違う時代を生きていたメンデルスゾーンの夢見た天国という表現をみたかった。

ベートーヴェンは地力のオーケストラと先鋭さを引き出そうとする指揮者とのせめぎ合い。ベートーヴェンの響きにぴったりの角ばらず中身の詰まった弦のアンサンブルと、オーボエやファゴットの柔らかく強い音が理想的に響いた。指揮者のうなり声が何度か聞こえたけれども空耳かな。オーケストラ固有の響きに表現の強さを与えようと指揮者が声をかけているような指揮ぶりで、ベートーヴェンが書いた勝利へ向かっての怒濤の攻めが目に見えた。朝早く起きてフランスとの代表戦のテレビ中継を観たからだけではなさそうな気がする。

昨年の映画「暗い日曜日」で運命の流れの中に希望を失っていくブダペストが描かれていたが、時に流されないハンガリーの人々の息吹がオーケストラの地力となって現れているのか。はて、僕たちもつい60年前に運命に翻弄されていたのに、今のぼくたちが持っているのは何だろうか。

アンコールはG線上のアリア、ダニーボーイ、そして炎のコバケン、ブラームスのハンガリアンダンス第5番。指揮者の扇動でスタンディングオベーションとなった客席、嬉しい盛り上がりでした。

(うーん マーラーが聴きたかった。)


6月21日(土)18時30分開演
ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団
指揮:小林研一郎 ヴァイオリン:千住真理子
■ リスト : 交響詩「前奏曲」
■ メンデルスゾーン : ヴァイオリン協奏曲 ホ短調
■ ベートーヴェン : 交響曲第5番ハ短調「運命」