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楽譜   演奏会見聞録

08年10月24日

堀米ゆず子

ベートーヴェンの4番のソナタの開始後まもなく、ピアノが耳に付いてしまいました。音色の多彩さが感じられない中音域の音が強く響き、音符が切れ目なくつながっていて息をつくところがないのです。そして、クレッシェンドのような、心をせかすフレーズの連続で、ヴァイオリンの響きがよく聞こえないのです。ピアノの音がすべてを支配してしまうようでした。
たしかに曲調は情熱的で、迫力ある演奏を心がけていたのでしょうが、ベートーヴェンの音楽の、簡潔な音からなる均衡した構成をもっと大事にしてほしかったところです。
ところどころで聞こえてくるヴァイオリンはしっかりした太い音で、好ましく感じました。
5番「春」第1楽章の有名なヴァイオリンのメロディーは、強い意志を示すように思い切りよく、力感充分に弾かれ、日なたのような懐かしさのかけらもなく、肩すかしを食ったようでした。
切迫感ばかり感じた演奏でしたが、2曲とも緩除楽章の第2楽章では、作曲者の素朴な歌を聴くことができました。

後半はブラームス1曲のみ。
第1楽章から情熱的な強いヴァイオリンの音が聞こえてきて、このコンサートの価値を実感できました。輝くというのではなく、重みのある、豊かな響きです。一音に世界が乗っているというような・・・。前半の「春」の第1楽章で聞こえたのもそうでした。
ブラームスが53歳から55歳に作曲した3番のソナタは、「人生の秋」「孤独な心境」とプログラムに書かれていました。しかし、この演奏では、ロマン派の激情がそのまま音になっていました。諦念という言葉とはだいぶ遠いところにあったようです。いまの堀米さんは作曲当時のブラームスと同年代、彼女にとっての人生の秋は、まだ燃えているもののようです。
前半にわたしが感じた「空回り」は意識しませんでした。ブラームスのピアノパートは、音の数が少ないのでしょうか。より強いヴァイオリンの表現の背景になりきっていたのでしょうか。

例によって客席は閑散。遠来のお客様にはつらい思いをさせます。エル=バシャさん、ごめんなさい。4年前の戸田弥生デュオコンサートのときも客席が淋しかったですね。懲りずにまた来てください。

帰宅後、思いついて、レコード棚をさぐってみました。堀米ゆず子1980年録音ブラームス1番・3番というLPが出てきました。また楽しみが増えてしまいました。


堀米ゆず子 & エル=バシャ
ヴァイオリン 堀米ゆず子
ピアノ アブデル・ラーマン・エル=バシャ
2008年10月24日木曜日 18:30開演
福島市音楽堂


■ ベートーヴェン : ヴァイオリン・ソナタ 第4番 イ短調 作品23
■ ベートーヴェン : ヴァイオリン・ソナタ 第5番 ヘ長調 作品24「春」
■ ブラームス : ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調 作品106