当地の映画館、福島フォーラムの21周年記念イベントというコンサートでした。フォーラムにはこの21年本当にお世話になっています。タルコフスキーもヴィスコンティもヴェンダースも、ベルイマンの「ファニーとアレクサンデル」もこの街で観ることができました。このコンサートもフォーラムが企画したから実現できたのでしょう。フォーラムは街の自慢です。
開演前にスクリーンに映されたのは映画 "Saravah"。パウリーニョ・ダ・ヴィオラがエスコーラ・ジ・サンバの歴史を語る。マリア・ベターニャとのデュエットから、パウリーニョの弾き語り、今は白髪の彼の、黒い上半身とセクシーな声がまぶしい40年前の映像。肩の力が抜けてとってもいい感じなのは、気の抜けたビールをすすりながらの歌だからというだけではない。「若さとはこんなに淋しい春なのか」と夭折歌人は詠みましたが、こんなにまぶしい春をみると、むかし年老いていたと思うわたしはこれから肩の力を抜いてやるぞと思ってしまいます。歌われていたのは Guilherme de Brito と Nelson Cavaquinho の「詩人の涙 / PRANTO DE POETA」、字幕では「詩人が死ぬとき」と訳されていました。
詩人の涙
マンゲイラでは / 詩人が死ぬと,みんなが泣く / 俺がマンゲイラで心静かでいられるのは / 死ぬとき誰かが泣いてくれるはずだと / 知っているからさ
でもマンゲイラでの涙は / とても他とは違っている / それはハンカチのいらない涙 / 人々を喜ばせる涙
私のためにも / 泣いてくれる誰かがいるはずだ / パンデイロとタンボリンでね
日本語訳 おーゆみこ
コンサートが始まる前にもうおなかいっぱい。だから舞台は恐ろしい。パウリーニョ・ダ・ヴィオラのコンサートと勘違いしてるみたいだ。
ピアノトリオを引き連れていよいよバルー氏の登場。
ジャズコンサートの雰囲気で「サンバ・サラヴァ」。ボッサ・ジャズという呼び方が昔ありました。バルーの肩の力が抜けた歌に、フルートをたずさえた女性が声のオブリガード。彼女が「saravah」には「祝福あれ」という意味があると教えてくれた。彼女がバルーの娘のマイヤさんなのでした。
続いてフォー・ビートの「小さな映画館 Le petite cine(')」。「悪魔が夜来る」(Les Visiteurs du Soir 1942 ジャック・プレヴェール脚本) で少年バルーが詩人を夢見た、学校に行かずに通った映画館から音が消え、解体工事の電気ハンマーが懐かしいガンマンに聞こえた。
ワルツの「ノエル」は「白い恋人たち」として有名な曲ですが、「大晦日に忘れられた七色の豆電球のよう」な大人から「雪の粉みたいに遊んでいる・・自分を守ることを知らない者たち」に捧げられた曲なのでした。雰囲気で聞いてしまいますが、フランス語の歌もきちんと詩を読まなければならないと反省しました。
「夕暮れ Cre(')puscule」は夏至のお祭り、夏至の日は La fe(^)te de la Saint-Jean 洗礼者ヨハネの祭日で、松明を一晩中燃やして歌い踊る。夕陽が消えていく美しさに「なんと立派なことか・・嫉妬するくらいだ」とつぶやく。
「ティティーヌ」はチャップリンが「モダン・タイムス」で歌い、フェリーニも「青春群像」で使った楽しい曲。
アガデュベベカマラ・・というとわかりますか。ジョビンの「おいしい水」です。伴奏のピアノトリオがいい雰囲気で、鼻歌風のバルーの軽さが気持ちいい。
バルーが休憩に入ると、キース・ジャレット・スタンダーズ風の伴奏にマイヤさんの日本風? 無国籍風? のフルートが乗るという、いろいろと楽しませてくれるコンサートです。
バルーがステージの縁に腰掛けてギターの弾き語りで「ダルトニアン(色盲)」を歌う。バルー自身が色盲なんだそうで、混ざり合うことの美しさ、感覚を共有することについて歌っていたらしい。しみじみとした歌だった。どんな編曲よりも一本のメロディーは一本のギターでいちばん映えるということか。
島の情景を歌った「与那国」。馬と風の楽園。ヨナグニ・・という発音がとっても美しく響いた。
1960年代の「生きる Vivre!」(そうだ 男に生まれ / 歌を書いたからには / 自分の声で歌い出そう / 信ずるすべてを込めて / 生きよう、生きよう、と)に続いて、こんな歌が・・・・。
「わたしはある人に会った/恋人の集うバーで/わたしは愛に飢えていた/その人に恋をした/そしてすべては限りない宇宙/まわる星の上のできごと」(Daniel Lavoie "BOULE QUI ROULE")
何度か繰り返されるうちに最後の2連が耳に残った。マイヤさんが聴衆に一緒にこの2連を歌うよう呼びかける。とても自然なのに客席は不自然、誰も歌おうとしない。ささやくような声が誰ともなく聞こえるだけ。そうなんです。この街のこういうところが・・・・。声を出さない地域性?
アンコールに「仮面の夜」。カーニバルの行列はだんだん遠く離れて行ってしまう。シコ・ブアルキの曲、とってもロマンチックな気分になりました。
フランス人が日本に住んでいて、ブラジルの音楽を聴かせてくれる。音楽に国境はないといいますが、人の心を通い合わせることができるのはやはり声(=言葉)なのかしら。"Amitie(')"(友情)・・バルー氏がCDに書いてくれました。
ピエール・バルー コンサート イン フクシマ
2008年12月2日火曜日19時開演
福島テルサFTホール
ピエール・バルー Pierre Barouh 歌
ジャン=ピエール・マス Jean-Pierre Mas ピアノ
井野信義 Nobuyoshi Ino ベース
ヤヒロ トモヒロ Tomohiro Yashiro ドラムス
マイヤ Maia 歌・フルート