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ラジオマイク   ボブ・ディラン

時節時世は変わるもの

みなさんどうぞお近くに
しばし足をお止めなさい
まわりの水かさが増えている
放っておけば
すぐにも骨までずぶぬれ。
おわかりでしたか
時間の値打ちを
ご存じのお方々
さっそく泳ぎ始めなさい
石のように沈んでしまわぬように
時世は変わるものですから。

作家と批評家のみなさん
ペンで未来を見通すのがお仕事
どうぞご油断なさりませぬよう
いまをのがせば二度と日の目を浴びぬ
話を急がれますな
まわるルーレットの前で
口に出して
どこに止まるか言う人はおりません。
何しろ今日の敗者は
明日の勝者
時世は変わるものですから。

上院議員閣下そして下院議員諸君
あなたがたにお話しするのです
入口で立ち止まってはなりません
入場者の妨げとならぬように
待たせられた人は
機嫌を損なうものですから
外では戦闘が起き
荒れ狂っている。
すぐに大音響が窓をふるわせ
壁も揺れ始める
時世は変わるものですから。

父親たち母親たちお集まりを
国中の親御さん
とがめてはいけません
理解できると思いめさるな
息子たちも娘たちも
もう支配できるところにはいない
昔からのやり方は
あっという間に時代遅れ。
新しい方法を見つけないと
力を貸すこともできない
時世は変わるものですから。

境界線が引かれ
まじないがかけられた
いま遅れているものが
スピードを上げ
いま新しいものが
過去のものとなっていく
道理がすごい速さで
色あせていく。
いまの一番手は
最後尾でゴールする
時節時世は変わるもの。

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ホリス・ブラウンのバラード

ホリス・ブラウン
住まいは町はずれ
ホリス・ブラウン
住まいは町はずれ
妻 5人の子
傾いた小屋

職さがし 金策
辛酸の家路
職さがし 金策
辛酸の家路
飢えた子供ら
失った笑顔

目をゆがませた小さい子
袖にからみつく子供ら
目をゆがませた小さい子
袖にからみつく子供ら
家のどこにいてもついてくる疑問
息を吸うたび吐くたびに

ネズミが小麦粉を這いまわり
雌馬は疫病
ネズミが小麦粉を這いまわり
雌馬は疫病
この有様を知る人はなく
世話できる人もなく

高きところ主への祈り
救いの手を求めて
高きところ主への祈り
救いの手を求めて
からのままのポケットを見て
救い手のないのを思い知る

おさな子の泣き声はますます大きく
頭の中でこだまする
おさな子の泣き声はますます大きく
頭の中でこだまする
かみさんの金切り声が突き刺さる
荒れた土砂降りの雨のように

牧草は黒く枯れ
井戸は干上がり
牧草は黒く枯れ
井戸は干上がり
最後に残った1ドル札
7つの銃弾に支払った

荒れ地のあたりから
遠くコヨーテが吠える
荒れ地のあたりから
遠くコヨーテが吠える
目は銃に吸い寄せられる
壁に掛かったそのあたり

頭から血が流れ
足は体を支えていないようだ
頭から血が流れ
足は体を支えていないようだ
両目で見据えているショットガン
自分の手でつかんだまま

7回そよいだ微風
平屋をひと回り
7回そよいだ微風
平屋をひと回り
7つ響いた銃声
高鳴る波のとどろきのよう

7人が死んだ
サウスダコタの農家
7人が死んだ
サウスダコタの農家
離れた別のどこかで
7人が生を受ける

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神が味方

おれは名もなく
年端も行かぬ
生まれ育ちは
中西部というあたり
大人が教えてくれたのは
法律を守ること
それに この国には
神が味方についている。

歴史の本に
書いてあることは
騎兵隊の攻撃に
インディアンが死んでいったこと
国にも若い時代があり
神が味方についていた。

なるほど 米西戦争
ということもあった
南北戦争という
時代もあった
英雄の名前を
覚えさせられたものだ
腕には銃を抱えていた
神が味方についていた。

第一次世界大戦
終わらない戦争はない
戦争の原因は
おれにはわからない
ただ受け止めればいいのだ
正しいことだと
だから死者の数を数えるのは無用
神が味方なのだから。

第二次世界大戦
これも終わった
ドイツ人を許し
いまでは友人となった
600万人の命が
焼却炉に消えた
ドイツ人には今では
神が味方についている。

ロシア人が敵だと習った
何度も教えられた
次の戦争では
敵は奴らだと
憎しみと恐れ
逃げかたと隠れかた
すべて勇敢に受けとめよう
神が味方なのだから。

わが方の最新兵器は
死の灰をまき散らす
発射の命令が出されれば
従うのは義務
ボタンの一押しで
世界中に火柱が立つ
誰も疑問は持たない
神が味方についているのだから。

幾度もあったつらい日々
そのたびに考えたことは
イエス・キリストのこと
裏切りの接吻のこと
誰も代わってはくれないから
自分で決めるほかはない
イスカリオテのユダに
神が味方したのだろうか。

もう終わろう
死ぬほど疲れた
この困惑ときたら
言葉にはできない
いくつもの単語が頭からあふれ出し
床にこぼれ落ちる
神が味方なのだから
次の戦争は止めてくださる。

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こうしていつもの朝がきて

通りで犬どもが吠える
陽もかげる日の終わり
夜が天から降り
犬も声を失う
音のない闇のとばりが
ざわめきを心に封じこめる
朝が来れば
千マイルもかなたにいる

家の前の十字路で
もう景色が薄らいでいく
ふり返ると部屋
恋人と抱き合った部屋
通りに眼をむければ
歩道と看板が続いている
朝が来れば
千マイルもかなたにいる

どこに向かうのか落ち着かない心持ち
誰が悪いわけではないのだけれど
俺が口にしたことを
ただ聞き流していればよかったんだ
君が考える正義があり
俺が考える正義がある
朝が来ればそれぞれに
千マイルもかなたにいる

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北国のブルース

朋輩たちお寄りなさい
昔話をひとつ語りましょう
鉄鉱が引きも切らず運ばれていた坑道
窓にはガラスの代わりの厚紙
長椅子に並ぶ年寄りたちが
町は空っぽだと教えてくれる

北の町はずれで
こども達を育てていた私だが
私を育てたのは母ではなかった
物心も着かないころに
母の病気で
兄が代わって育ててくれた

鉄鉱は流れ出ていた
来る年もまた来る年も
牽引ロープとシャベルがうなりを飛ばし
それもあの日までのこと 兄が
家に戻らなかったあの日
父が戻らなかったいつかの日と同じように

待つには長い冬の日を
窓の外に眺めるばかり
仲良しの友達もいつか遠ざかった
学校へももう通わない
その春私は
結婚したから ジョン・トマス 坑夫の男と

さらに時は過ぎ
実入りはよくなり
季節の色とりどりのランチ・バスケット
3人の子供ができた頃
時短がはじまり
半日勤務の理由は告げられない

そのうち縦坑は閉鎖
さらなる時短
たきつけられる怒りと凍えていく気持ち
ある日会社の男が
告げた 一週間後
十一番坑は閉鎖になると

東部のせいだ と不平の声が
賃金を払いすぎたんだと
またこうも 鉱石の質が悪かったと
別の声は 原価で負けたんだ
南米の鉱山町では
坑夫の賃金がただ同然

坑口には戸が立てられ
鉄は赤く錆びた
部屋は酒飲みの饐えた匂い
低く元気のない歌声がして
倍の時間にも思いながら
夕日が沈むのを見ているんだ

窓のそばに私がいて
あの人はひとりごとを言うだけ
沈黙の舌が家じゅうに広がって行き
その日目を覚ますと
ベッドははだけられ
3人の子供と残された私

夏も過ぎ
地面も熱を失い
1軒また1軒と畳まれていく商店
子供たちも去っていく
大人になる日を待ちきれぬように
この町には引き止める何もない

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やつらのゲームの駒1個

1発の藪のかげからの銃弾が流させたメドガー・エバーズの血
1本の指が引いた引き金はたしかに男のしわざ
1本の拳銃が闇に隠れ
1つの手が火花に点火し
2つの目がねらいを定めた
1人の男の後頭部
責められるだろうか
男はやつらのゲームの駒1個

貧乏白人に演説を聞かせる南部の議員様
「黒人より稼いでいるんだ 文句を言うな
あいつらよりずっとましだ 白い肌に生まれて」と説明する
ニグロと較べればわかりやすく
議員にも都合がよく
評判があがるが
貧乏白人は何も変わらず
貨物列車の屋根の上
責められるだろうか
彼はやつらのゲームの駒1個

副保安官も下士官も長官も給料が出る
署長も警官も給料が出る
貧乏白人はやつらの手の中でもてあそばれる
学校で教えられること
入学早々 あたりまえのことだからと
法律は白人のためにあり
白い肌を守ってくれ
憎しみを思い出させてくれる と
そうしてだれも筋道立てて考えない
世の中のあり方についてなど
責められるだろうか
彼はやつらのゲームの駒1個

スラムのぼろ家 壁のひび割れから路地を眺めて
脳裏をたたきつけるひづめの音
歩くときは群れを組むことを習った
銃撃は背中を狙う
引き金から指は離さない
縛り首のやり方 リンチのしかた
顔を襟に隠すこと
痛みを感じない殺人
つながれた犬と同じだ
名前もない
責められるだろうか
彼はやつらのゲームの駒1個

銃弾がメドガー・エヴァーズの命を奪った今日この日
王のように横たわった遺体
うすぼんやりとした夕日に浮かぶ
狙撃者の姿
彼には見えるだろうか あなたの墓の
石碑の名前のわきに彫られた
墓碑銘はこのひとこと
彼はやつらのゲームの駒1個

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スペイン革のブーツ

ああ ただ一人のこころの恋人 わたしは船に乗る
朝にはもう船出
海の向こうから送ってほしいものを教えてほしい
船が着くその港町から

いや 送るものは何もない 俺の思い人よ
ほしいものは何もない
いまのまま何も変わらずにいてほしい
海のはるか彼方から思うだけ

でも 上等なものならほしいでしょう
銀でできてたり金でできてたり
マドリッドの奥山の特産だったり
バルセロナの海辺の名物だったり

ああ 漆黒の闇夜の星が手に入ろうと
深い海の底のダイヤモンドだろうと
君との甘いくちづけがあれば捨ててしまう
ほしいものはそれがすべてだ

もうずっと帰ってこないのだから
そんなことしかできないのだから聞いているの
わたしの思い出としてあなたに送りたいの
つらいときのなぐさめとして

もういいよ もう 聞かないでくれ
悲しくなるだけだから
いま君にしてもらえることを
明日もしてほしいだけなんだから

ひとりぼっちになったところに届いた手紙
航海中のあの子からの
帰国するかどうかはいまは頭にないと
これからの気持ち次第だと

そうか 君の思いはそういうことか
あてもなくさまよう君の心
俺に未練はないということだ
心はこれからの他国の暮らしにしかないということだ

それなら 西風には用心
嵐もようにも気をつけなくちゃ
それから あったよ君に送ってほしいもの
スペイン革のスパニッシュ・ブーツ

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船が入るとき

時来たれり 嗚呼
普く風は止み
微風さえ息を潜め
静けさに潜む
嵐の到来の予感
時 いざ船が入るとき

海波そこここに砕け散り 嗚呼
船底波を打ち
汀の砂は渦巻き
音を立てて潮は寄せ
突き進む風のなか
夜は明けていく

魚は笑い声を上げて 嗚呼
魚道をはずれていく
カモメはほほえむ
砂浜のそこここで岩が
堂々と起ち上がる
時 いざ船が入るとき

言葉は飛び交っても
船は途方に暮れるばかり
話をまともに聞く者はない
海に巡る幾多の鎖は
夜の間にほどけて
外洋の底に埋まっていく

歌声があがる
帆の向きが変わり
ボートが海岸線への滑り出す
陽光が敬意を払う
甲板の顔そして顔
時 いざ船が入るとき

砂浜はもてなしの
金の絨毯と変わり
疲れた足を慰めてくれる
船上の賢人たちが
また思い起こさせる
世界中が見守っていてくれることを

敵が現れる 嗚呼
眼はまだ眠って
ベッドからふらふらと夢を引きずり
お互い身をつねり合い黄色い声を上げて
夢ではないことを確かめている
時 いざ船が入るとき

さて彼らが殴りかけてくる
口々に戦の種をまいたのは我らだと
我ら舳先から叫ぶ 汝らの終わりの日は来た
ファラオの一族のように
彼らは潮に溺れていく
ゴリアテのように敗北する

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ハッティ・キャロルの孤独な死

哀れなハッティ・キャロル ウィリアム・ザンジンガーが殺した
凶器は杖 ダイヤの指輪をはめた指がくるくる回していた杖
ところはバルティモアホテル 社交パーティの最中
警察が呼ばれ 凶器は没収された
本人はもちろん拘束された
ウィリアム・ザンジンガー 送致記録は第一級殺人罪
不名誉を断罪し すべての欠陥を非難する立場のあなたは
顔をぼろ布で覆うのはやめなさい
涙を流して終わりにすることはできないのだ


ウィリアム・ザンジンガー 年齢24歳
その所有するタバコ農場 面積600エーカー
裕福な両親が後見し庇護している
メリーランド州の政界に顔が利き
自分の行いに肩をすくめるだけで済ませる
宣誓しても口をゆがめるだけ 口を開けばののしりだけ
 数分後には保釈で自由に歩き回り
やはり 不名誉を断罪し すべての欠陥を非難する立場のあなたは
顔をぼろ布で覆うのはやめなさい
涙を流して終わりにすることはできないのだ

ハッティ・キャロル 厨房のメイド
51歳 10人の子持ち
仕事は皿運び そして片づけ
食事の上席に座ること一度としてなく
テーブルの客人と話すこととてなく
ただ皿を片づけることだけが仕事だった
そして灰皿を片づけることだけが
一打ちで吹き飛ばされ たたき殺され
空気を引き裂き 高みから降り下ろされたステッキ
良家のたしなみに決然と審判がおりる
やはり 不名誉を断罪し すべての欠陥を非難する立場のあなたは
顔をぼろ布で覆うのはやめなさい
涙を流して終わりにすることはできないのだ

法定の厳粛の中で 判事が槌を振りおろす
すべて人は平等 裁判は公平
法律は恣意で適用されないし
貴賎は判決に影響しない
ひとたび司直の手にかかれば
法の梯子には上も下もない
目の先の故なき殺人者
ただそうしたかっからと突然ことを起こした
法服の判事はよく響く声で明瞭に
判決を言い渡し悔悟を求めた
ウィリアム・ザンジンガーに6箇月の刑
やはり 不名誉を断罪し すべての欠陥を非難する立場のあなたは
顔をぼろ布で覆うのはやめなさい
涙を流して終わりにすることはできないのだ

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別れの落ち着かなさ

生まれてこのかた使った金のどれもが
俺の金と言えるかどうかは別にして
気持ちよく仲間たちに分けてきたのは
ともに過ごす時間の確かさからだ
酒瓶は全部あいた
みんなそれぞれにすっかり空にして
テーブルは空き瓶が崩れそうだ
通りには看板に
閉店の札が下がっては
別れのあいさつをし帰って行くほかはない

生まれてこのかた肌に触れた女達のだれにも
乱暴をしたわけではない
傷つけてしまったことはあるけれども
わざとしたことではなかった
ずっと友達でいることで償おうとすると
長い時間がいる 足止めもされる
浮き立つ俺の足が
過ぎたことから離れたくてしょうがない
別れのあいさつをして旅立つほかはない

敵としてめぐりあったやつはどいつも
争いの種は俺が来る前にまかれていた
どの抗争も成り行きには
悔やむものも恥じるものもない
闇は消えていく
カーテンを引き 目の前に
夜明けがひろがるとき
日の光を見てしまえば
もう一日いることになってしまう
暗いうちにあいさつをして旅立つほかはない

心の中でいくつも絡まってくる思いに
反発してこなかったら俺は狂っていただろう
見知らぬやつらの前に裸で立つわけではない
自分と仲間のために俺の物語を唄う
時間は手の届かないものではなく
頼りになるものではない うまく説明してくれる
親友がいるわけではない
行列は途切れたが
ここが一番最後だというわけではない
また逢う日まであいさつをして旅立つほかはない

合ってない時計に合わせて動くのが俺の時間
評判は落ちるしまごつくしやりきれない
陰口が埃になって俺にかかる
噂の埃が俺の顔に積もっていく
矢がまっすぐで
先が研いであれば
いくら埃が厚くても突き通る
だから俺は持ちこたえる
俺の生き方で通そうと思う
別れのあいさつをしても気持ちは平気さ

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