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ラジオマイク   ボブ・ディラン

ジョン・ウェズリー・ハーディング

ジョン・ウェズリー・ハーディング
貧者の味方
両手に銃の旅姿
この地方のそこかしこ
開けた戸口は数しれず
それでも誰もが知っている
正直者に手出しはしなかった

チェイニー郡での事件が
ひところ噂になった
女をかばっての
立ち回り
あっという間に
片が付いて跡形もない
人の噂が伝えることだが
頼る者には力を惜しまなかった

事件は全国に打電され
勇名を轟かせた
当局が告発しようにも
証拠は挙げられなかった
誰の手にも負えない
追うことも捕まえることも
人の噂が伝えることだが
思慮のない動きはしなかった

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ある朝外に出て

ある朝外に出て
トム・ペイン邸あたりの風にあたろうとした
出会ったのは絶世の美少女
鎖に繋がれ歩いていた
手を差し出すと
腕を手繰ってきた
その時おれは気がついた
危害を加えるつもりだなと

今すぐ離れろ
俺は声を上げた
女は言う 離れたくないわ
お前が決めることじゃない
お願いだから 女がすがる
声を潜めて
何も話すな 頼みは聞く
ついて来い 南へ逃げるんだ

その時 トム・ペインその人が
野を横切って走ってきて
この美人に大声で
控えるよう指図をした
女が手を離したのは
トム・ペインが近づいたとき
申し訳ない トムが言う
彼女の行いをお詫びする

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夢の中の聖オーガスティン

夢の中の聖オーガスティン
世に生きていた姿で
涙をためてこの街の
これ以上ない貧苦の中
脇に抱えた毛布
黄金のコートをまとい
捜し歩いていたのは
悪魔に魂を売った抜け殻たち

目覚めよ 大声の叫びが
あたりを響かせる
出でよ 有能なる王そして女王
我が嘆きの訴えを聞き給え
われらの中に殉教者はあらず
われらが頼みの殉教者はあらず
こうして歩みを進めるわれらの道
知るが通り われらはひとりではない

夢の中の聖オーガスティン
燃える息の現し身の姿
夢の私は群衆のひとり
聖者を死に追い落としていた
怒りのうちに目を覚まし
孤独におびえ
ガラス窓に手をつき
うなだれて声を上げて泣いた

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望楼の脇におそろいで

抜け出す道はきっとある ジョーカーが泥棒に言った
面倒ばかりで息を抜けない
ワインは商売人たちに飲まれる 土地は農夫に掘り返される
現れるやつのひとりとして物の価値を知る者はない

腹を立てるだけ損だ 泥棒が親身に言った
ここの大勢のやつらには人生はただの笑い話だが
そいつをくぐり抜けてきたお前と俺だ ここは最後の場所ではない
実のない話はやめておこう 夜もだいぶ更けた

望楼の脇におそろいで王子たちが見渡している
顔を見せては下がっていく大勢の侍女 そして素足の従者たち

遠く離れたところで山猫の遠吠え
馬上の二人が近づいてくる 風がうなり始めた

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フランキー・リーと司祭ユダの物語

フランキー・リーと司祭のユダ
友情の見本
フランキー・リーの無心に
10ドル札の束をユダは取り出し
ストールに置いて
要るだけ取りな 相棒
俺が減る分お前が増える

と そのまま座るフランキー・リー
指であごを押さえ
ユダの醒めたまなざしを受けて
頭を揺らし出す
そんな目で見ないでもらえないか
つまらない自尊心というものだが
誰にもひとりになりたいときがあるが
ここには身を隠す場所もない

目配せしてユダが言う
わかった 俺たちは別れよう
あんたは急いで算段した方がいい
どれだけの札束を懐に入れるか
なくならないうちに早く決めるがいい
獲物探しに出かけるから
居所だけは知らせろよ

ユダは街道を指さし
一言 「永遠」
「永遠?」 とフランキー・リー
オウム返しに呟いた
「聞こえたとおりだ」司祭ユダは続けて「永遠、
別の名を 楽園」

「それはどんなものなんだ」
フランキー・リーは笑って言う
司祭ユダは 「まあいいさ、
また会おう」

腰をおろしたフランキー・リーは
気落ちした姿でいた
通りすがりの男が
目の前に現れて
「おまえが博徒のフランキー・リーか
親父は故人だと聞いた
もしおまえがそうなら
町はずれで仲間が呼んでいる
司祭という名のやつだ」

「ああ そいつなら友達だが」
びっくり顔のフランキー・リー
「よく知っているやつだ
ついさっきいなくなったばかりだ」
「それなら間違いない」男が言う
ネズミのようなひっそりした声で
「ことづてを預かった 町はずれにいる
そこの家で立ち往生だ」

フランキー・リーはうろたえた
何もかまわず走り出した
めあての場所に着くと
司祭ユダが立っていた
「どういう家なんだ」とフランキー・リー
「さがしまわってやっと着いた」
司祭ユダが言う 「これは家なんかじゃない
・・・これはわが家だ」

フランキー・リーはおびえ
そして自分自身がわからなくなった
そして 生まれてこのかた自分がしたことのすべてが
そのとき伝道の鐘が鳴り響いた
彼は立ちつくし眺めていた
この大きな家 日の光よりまばゆく
4と20の窓の中に
それぞれ女の顔が見えた

フランキー・リーは踊り場を駆け上がった
激情にはずむ足どり
口からは泡を吹いて
憑かれたように這いはじめた
16の夜と16の昼 うわごとを言い続け
17日目に突然
司祭ユダの胸に飛び込んでいった
のどの渇きで死んだ

だれも口には出さないが
ひやかし半分で彼の亡骸を表に運んだ
となりに住む少年ひとりが当たり前のように
埋葬の世話をした
ただひとり遺骸について
自責の気持ちを胸に秘めて
小声でつぶやいていた
「あきらかになったものは何もない」

この物語の教訓
この歌の教訓は
かんたんなことだ だれにも
自分にふさわしい場所がある
隣人が何か荷物を背負っていれば
お手伝いするのは当たり前だ
しかし楽園だなどと勘違いして
道路を越えたよその家に入り込むなよ

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流れ者の逃走

「わたしの窮地をお助け下さい」
流れ者が言った
法廷から連行され
移送されるその時に
「わたしにかつて楽しい日々はなく
先ももう見えた
だがいまだにわからない
わたしの何がいけなかったのか」

判事は法服を脇に置き
涙を目にためて
言った 「おまえにはわからない
考えてどうなるということではない」
外では群衆が騒ぎはじめた
ドア越しに声が聞こえる
中では判事が席から降り
陪審はまだ声を上げている

「ばかな陪審をやめさせろ」
傍聴人と付き添いが叫ぶ
「審理も不充分だったが
これは10倍もひどい」
時あたかも雷光の一閃
裁判所は落雷に打ち壊され
人々がひざまずき祈る間に
流れ者は姿を消した

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親愛なるだんな様

親愛なるだんな様
わたしの器量をどれほどとお思いか
もうじゅうぶんに荷物を背負い
考えるのは夢のようなことばかり
客船の汽笛が聞こえると
お預かりしたものすべてをお返ししたくなります
よろしくお受けいただいて
あなたの思いのままにして下さればと

親愛なるだんな様
しかとお聞きくださいますように
お気配りいただいたのは承知しています
しかしいまひとつお気づきいただけませんか
われらみな そのときどきの仕事があるいはつらく
あるいは急ぎで また 嵩があり
われらの心を占めるのは
見えても手が届かぬものばかり

親愛なるだんな様
どうぞお聞き入れ下さいますように
言い争いは望むところではありません
よそに出て行こうなどとは思いません
あなたもわたしも変わるところなく命を授かり
それが摂理とご存じのはず
軽んじなさいますな さすれば
わたしも軽んじたりはいたしませぬ

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俺は孤独な流れ者

俺は孤独な流れ者
家族もなく友もない
そこから人の生活が始まるのだが
俺にとっては最後にたどり着きたい場所だ
賄賂もにぎらせ
ゆすりもいかさまもした
しないことはないぐらいだが
物乞いだけはしなかった

うまくいってたときもないわけではない
足りないものは何もなかった
金持ち特有の金ぴかの口調で
絹で服をあつらえた
それが 自分の弟を疑って
とがめだてしてからというもの
運が尽きたのだろう
恥辱のうちに放浪の旅にでた

心あるみなさま方
すぐにも立ち去ります その前に
ひと言忠告をさせなさるか
長くはおりません
狭量に嫉妬などなさいますな
よくとわからぬ慣わしに従いなさいますな
舞い上がってこんな旅に出るなどもってのほか

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貧しい移民を不憫に思い

不憫なのは貧しい移民
祖国を出たのを悔いながら
悪事に才覚を使い果たし
とどのつまりはお定まりの絶望
分け前ねらいのいかさま仕事
口を開けばでまかせばかり
人生はときに忌むべきものとなり
さりとて死はさらに耐えられぬ

不憫なのは貧しい移民
持てるものを費やして得るものもなく
仰ぐ天国は鎧のように堅固
涙すればとどまるところなく
腹ふくれても心は満たせず
耳に届いても目に映るものはなく
富そのものに恋に落ち
生身の人間には目を背ける

不憫なのは貧しい移民
ぬかるみの中に足を進める
笑い声で口を満たし
血の汗で街を造りあげる
幻に見る最後の時は
きっとガラスのように粉々に砕けている
不憫なのは貧しい移民
喜びの日はいつ訪れる

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悪意の使者

悪意の使者がいた
イーライから来た男だ
大げさにするたちで
何ごとも難しくする
誰の使者か訊ねると
答えに親指を立てる
物言わぬ舌でへつらうばかり

議事堂の裏手に借屋して
根城とさだめ
出入りする様子がうかがえた
ある日のこと姿を見せると
手に書き付けをもっていて
「俺の足の裏は燃えるように熱い」

いつの間にか 木々の葉が落ち始め
海がふたつに分かれる
使者に立ち向かう多くの人々
飛び交う多くの言葉のうちのひとつに
心を開かれたのだ
「良き知らせでなければ、何も伝えなさるな」

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入り江で

入り江で
愛するあの人が来るのを見ていた
入り江で
愛するあの人が来るのを見ていた
口をついて出るのは 「なんという恵み
今日会えるなんて 願ってもないこと」

入り江で
愛しのベイビイが来るのを見ていた
入り江で
愛しのベイビイが来るのを見ていた
彼女の言葉は 「うれしいわ あなた
よかったわ あなたとふたりで」

入り江で
手をつないで歩いた
入り江で
手をつないで歩いた
僕たちを見ていた人たちはみな
僕らが恋人だって すぐわかった

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君と過ごす今日この夜

目を閉じて そう ドアも
心配は何もない もう
君と過ごす今日この夜

灯りをおとして 日よけも
こわいことは何もない もう
君と過ごす今日この夜

モッキングバードも渡りのとき
俺たちも忘れていい時期さ
大きく丸い月がスプーンのように輝く
照らさせておけばいいさ
心残りは何もないだろう

靴は脱ぎ捨てて ためらわずに
酒瓶はこっちにおくれ
君と過ごす今日この夜

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