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ラジオマイク   ボブ・ディラン

落石が音を立てて

着飾った君が
浮浪者に小銭を投げてやったことがあったよね
気前がいいな 落ちぶれるなよ 冷やかされて
からかわれたと思ったろ
笑いの種にしていたよね
恥ずかしげもないのねとか
このごろ話し声が低くなったよ
お高くとまっちゃいられないんだ
飯の種さえ心配なんだろう

気持ちはどんなだい
気持ちはどんなだい
家もない
無名の人というのは
音を立てて転がる岩の気分かい

すごい学校を出たんだよね 寂しがりやさん
さぞかし楽しい思いをしてきたんだろうが
家なしの暮らし方は誰も教えてくれなかった
少しずつ慣れていくしか方法はないんだ
言ってたよね おつき合いはごめんよ
身元のわからぬ渡り職人なんかとは
でもアリバイを金で売ったりしないよ
あいつらの目の奥底までのぞき込んで
取引を持ちかけてもだめだよ

気持ちはどんなだい
気持ちはどんなだい
誰の手助けもない
無名の人というのは
音を立てて転がる岩の気分かい

嫌な顔をして見ようとしなかった曲芸や道化
喜ばそうとしていただけなのに
見てあげればよかったんだ
結構楽しめたのに
あの遊び人と乗ってたのはフェラーリかい
あいつシャム猫を肩に乗せてたぜ
今となってはきっとつらい思いだよね
信じていたのに裏切られて気がつけば
奪えるだけ奪われたあとだったんだ

気持ちはどんなだい
気持ちはどんなだい
誰の手助けもない
無名の人というのは
音を立てて転がる岩の気分かい

王女様が着飾った連中と屋根に上がって
酔っぱらって いつものように
プレゼントの交換
でも君はダイヤの指輪をはずして質屋がよい
昔おもしろがっていたよね
ぼろを着たナポレオンがフランス語を話しているって
待っているから会いに行けよ 断っちゃだめだ
もう財産もないし 盗られるものもない
いなくても同じだし なんの隠し事もない

気持ちはどんなだい
気持ちはどんなだい
誰の手助けもない
家の方角も分からない
無名の人というのは
音を立てて転がる岩の気分かい

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墓石のブルース

可愛くておいしいのはベッドの中 誰でもそうだ
町の長老たちが画策して
ポール・リビアの愛馬再来の噂が広まる
でも通りはのんびりといつも通り

女盗賊ベル・スターの亡霊から譲り受けた機知で
恥知らずの尼僧イゼベルが無造作にこしらえた
毛のないカツラを手にした切り裂きジャックが
商工会議所の会頭の座に納まる

おっかあは工場
裸足のままで
おやじは裏通り
導火線をたどってる
俺は街に出て
歌う墓石のブルース

所はゲームセンター 気が立った花嫁が
大きなうめき声 もともとこういう女なの
呼ばれた医者がカーテンを閉めて
男は近づけないように

まじない師がすり足でやってきて
ふんぞり返って花嫁に言うには
泣くのはおやめ 恥ずかしがることはない
死にはしない あとには残らぬ

おっかあは工場
裸足のままで
おやじは裏通り
導火線をたどってる
俺は街に出て
歌う墓石のブルース

洗礼者ヨハネは盗人を懲らしめて
英雄と崇める総司令官に向かって
勇者よ 教え給え
穴はどこか 吐きそうなのです

総司令官は蠅を追い払いつつ
「泣く者はすべて殺せ」と言い
バーベルをおろすと空を指さし
「太陽は気の弱い腰抜けだ」

おっかあは工場
裸足のままで
おやじは裏通り
導火線をたどってる
俺は街に出て
歌う墓石のブルース

ペリシテ人の王の兵士は命により
墓石に顎骨を投げつけ 墓穴をハンマーでふさぐ
笛吹き男たちを監獄に入れ 太らせて
密林に送り込む

ジプシーのデイヴィはガスバーナーでキャンプを焼き払い
忠実な召使いのペドロを連れて旅に出た
切手のコレクションのすばらしさは
友を呼び叔父も感心していた

おっかあは工場
裸足のままで
おやじは裏通り
導火線をたどってる
俺は街に出て
歌う墓石のブルース

幾何は生まれつきまるっきりだめで
ガリレオの数学の教科書を投げつけた
ひとりぼんやりしていたデリラの
頬の涙は笑いすぎたせいだ

バッファロー・ビル兄貴は冷や汗ものだったろう
山の上に鎖でつないだのが俺
あのあとセシル・B・デミルのところで稼ぎ頭になったそうだ
幸せな老後だったそうな

おっかあは工場
裸足のままで
おやじは裏通り
導火線をたどってる
俺は街に出て
歌う墓石のブルース

マ・レイニーとベートーヴェンがシーツをひろげたその場所で
チューバ奏者が旗を囲んでリハーサル
銀行の今度の商売は道路地図の販売
得意先は老人家庭と老人クラブ

やさしいメロディーが書けたかな
気を立てずににこにこしていられる
安心して落ち着けて心地よく
役に立たない知識を忘れられればいいな

おっかあは工場
裸足のままで
おやじは裏通り
導火線をたどってる
俺は街に出て
歌う墓石のブルース

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笑って過ごせるのはいつのことか 悲しみが続く

郵便貨車に乗ったんだ ベイビイ
つまらないもんさ
夜通し起きてて ベイビイ
窓に寄りかかってた
俺が死んで
最後まで行けなくても
あとは
あの娘がやってくれるさ

いい月だ ねえママ
木々を抜ける月光
機関助手がいい男だ ねえママ
Eのかたちに2回旗を振ったね
お日様もきれいだ
水平線の落陽
あの娘はいい子だよ
くっついてくるからかな

もう冬の到来
霜の窓
みんなに教えてまわりたい
でもそれも大層なこと
恋人でいたいだけなんだ
言うことを聞かせようなんて思わない
言ってくれなかったなんて言うなよ
汽車が見えなくなってから

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ビュイック6の窓越しに

ものにしたのは墓場の女 ガキの面倒を見てくれる
でも気を回す女で 内緒にしている
ポンコツ置き場の天使 俺にパンをくれる
俺を看取って やさしく毛布を掛けてくれるだろうぜ

パイプラインがとぎれて 橋のところで迷子になった
車道をうろうろ 川べりでのそのそ
高速道路から下りた彼女が 糸で縫いつけてくれるみたいだ
俺を看取って やさしく毛布を掛けてくれるだろうぜ

いらいらさせないし しゃべりすぎない
歩く姿はボ・ディドリー 杖はつかないが
41マグナムに弾丸をフルに装填
俺を看取って やさしく毛布を掛けてくれるだろうぜ

パワーショベルがあれば 死人も近づけない
ダンプトラックで俺の頭の中を持ってってくれ
俺があるのは彼女のおかげ 何度も言ったが
俺を看取って やさしく毛布を掛けてくれるだろうぜ

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やせこけ男の語り歌

部屋に入る
手には鉛筆
裸の男がいて
誰だ 声をかける
いくら考えても
わからない
どう言えば分かってもらえるか
家に帰ってから

そうさ ここで何かが起きている
でもそれがなんだか分からない
分かりますか ジョーンズさん

頭をおこして
「ここはどこだ」と声を出すと
そいつはあなたを指さし
「あんたんとこだろ」
「私の家だって」と声を返すと
別の男が「何がどこだって」
あなたの台詞は「天にまします神よ
私に救いはなく天涯孤独なのですか」

そう ここで何かが起きている
でもそれがなんだか分からない
分かりますか ジョーンズさん

切符を渡して
見世物小屋にはいると
蛇使いが登場して
あなたの話を聞きつけて
「あなたならどういう気分ですか
私のような仕事につくというのは」
あなたは「あるはずがないでしょう」
あなたに渡されるのは一本の骨

そう ここで何かが起きている
でもそれがなんだか分からない
分かりますか ジョーンズさん

つき合いの
木こり仲間での
常識というものがあり
思いをめぐらす邪魔はしても
尊敬の念はもったりはしない
みんなが期待しているのは
あなたの小切手
慈善団体だったら経費で落とせる

教授たちと過ごした日々
好かれていたハンサムなあなた
有能な弁護士たちと
癩患者や犯罪者について議論をしていた
読破した
F・スコット・フィツジェラルドの全作品
あなたの理解の深さは
周知の事実だった

そう ここで何かが起きている
でもそれがなんだか分からない
分かりますか ジョーンズさん

寄ってきたのは剣をのみ込む曲芸師
ひざまずいて
足を組み
鉄のかかとをカチッと鳴らし
それが合図のように
聞いてきた どんな感じか
お返しします あなたの喉を
お貸しいただきお礼します

そう ここで何かが起きている
でもそれがなんだか分からない
分かりますか ジョーンズさん

続いてきたのが片目のこびと
「今こそ」とわめく
「何が言いたい」と聞くと
「なんだって」と聞き返す
「分かるように話せ」と言うと
金切り声で「お前は牛だ
牛乳をよこせ
くれないならさっさと帰れ」

そう ここで何かが起きている
でもそれがなんだか分からない
分かりますか ジョーンズさん

部屋に戻ったあなたは
駱駝のよう しかめ面で
ポケットをのぞき込み
床の臭いをかぐ
法律を作って
うろうろするのを禁止した方がいい
あなたには義務として
イヤフォンをつけさせる

そう ここで何かが起きている
でもそれがなんだか分からない
分かりますか ジョーンズさん

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ジェーン女王の肖像

あなたの招待状を母上が全て送り返し
父上は妹さんに不満を言う
それじゃ自分にも自分の作品にも嫌気がさすさ
会いにおいでよ ジェーン女王
会いにおいでよ ジェーン女王

花売り達がつけの代金を取りに来る
薔薇の香りは残っていないのに
こどもたちにも腹を立てられて
会いにおいでよ ジェーン女王
会いにおいでよ ジェーン女王

雇っていた道化達はみんな
戦争やらなにやらで死んでいった
そんな繰り返しにうんざりだね
会いにおいでよ ジェーン女王
会いにおいでよ ジェーン女王

王室顧問達はビニールを巻き上げている
あなたは痛みを実感するばかり
もっと思い切った結論が必要なようだ
会いにおいでよ ジェーン女王
会いにおいでよ ジェーン女王

こちらでは盗賊達が
バンダナを外して不平を言っている
あなたをあてにしていない人はいないものか
会いにおいでよ ジェーン女王
会いにおいでよ ジェーン女王

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61号線での再会

神エイブラハムに言う「息子を殺し差し出せ」
エイブは言う「おい 人に押しつけるな」
神は言う「そうではない」 エイブ「ではなんだ」
神は言う「したくないならしないでよい エイブ だが
今度めぐりあうときは逃げた方がいいぞ」
するとエイブは言う「どこで殺すさだめだ」
神は言う「61号線の町はずれ」

赤鼻のジョージア・サムに
福祉事務所は衣類もくれない
同類のハワードにあてを訊ねると
たった一つあるという
急いでいるんだはやく教えろ
したたかなハワードが銃で先を示す
61号線を下ったところだそうだ

スリのマックがルイ王に言う
赤白青のまだらの靴ひもが40本
電話は1000あるがひとつも鳴らない
こんな娑婆から足を洗うにはどうすればいい
少し考えさせてくれとルイ王
思いついて ああそれは簡単だ
61号線にうっちゃってしまえ

十二夜の五番の娘が
一番の父に言う 気分が優れないの
顔色も悪いし
明るいところで見せてごらん ああほんとだ
万事片づいたと二番の母に言わなきゃならない
七番の息子と一緒と連れだって
61号線の先にいた

さすらいの博徒が退屈にまかせて
世界規模の戦争を企画した
雇った興行師はあわててつまずいた
そういう興業を請け負ったことはないが
考えれば難しい仕事ではない
立ち見の一般席を作って
61号線で興行しよう

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こびと芸人トム・サム風のブルース

雨で迷ったメキシコのフアレス市で
折しも復活祭の季節
君の求心力も限りが見え
なぜか協力を得られず
そんなそぶりもない
モルグ街の通りを歩いても
会うのは飢えた女だけ
世の中 気の滅入ることばかり

聖者アニーに会ったら
感謝の気持ちを伝えてくれ
私は行けないし
指も自由に動かない
体力も落ち
起きあがってねらいを定めるのもできない
親友の医者の話では
良くなる気配もないそうだ

芳しのメリンダ
農夫たちには悲しみの女神
折り目正しい言葉遣いで
部屋へ招き入れる
もしも素直に
ためらわずに付いていったら
声を奪われて
ひとり残され月に吠える

団地の高台で
富と名声のどちらかと
二者択一を迫られる
たしかに手に入るあてはない
愚かなことが嫌だったら
来た道を真っ直ぐ戻った方がいい
警察は取り合ってくれないし
誰もかかわりを持ちたくない

お偉方は誰でも
何とはなしに自慢する
警備局長の弱みを握って
引退させて
後がまはエンジェルとかいう
西海岸から来たばかりの
はじめは元気が良かったが
終いには幽霊のように消えたとか

ブルゴーニュで始めたけれど
すぐに強い方が良くなった
お前を支えてやるとみんなが言ったのに
商売が左前になって
後ろ指をさされるようになったら
剣が峰の俺には誰も寄ってこない
ニューヨークに戻るさ
もうたくさんだよこんなのは

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惨憺通り

売店の絵はがきは首つりの絵
パスポートは茶色に塗られた
美容院で水夫が順番を待ち
サーカスが興行している
めくらの長官がおでまし
興奮した群衆に迎えられて
綱渡り芸人に手を取られ
片手はズボンに突っ込んで
機動隊員は心ここになく
どこかへ行ってしまいそうだ
伯爵夫人と俺が今宵見渡す
惨憺通り

シンデレラはのんきそう
一度には覚えられないわ 笑っている
両手を尻ポケットに入れて
ベット・デイビスのポーズ
入ってきたのはロメオ ぼやきながら
おまえは俺のものだよな
誰かの声が あんたの来る所じゃないぜ にいさん
とっとと消えな
通りが静かになった
救急車が通り過ぎたあと
シンデレラがほうきで掃く音が聞こえる
惨憺通り

月の姿は定かでなく
星々も隠れはじめた
女占い師は
道具を片づけてしまい
カインとアベルの兄弟と
ノートルダムのせむし男を残して
誰もがベッドで恋のさなか
さもなければ雨降りを待っている
善きサマリア人が衣装を付けて
ショーの出番を待っている
今夜の見せ物の会場は
惨憺通り

オフィーリアは窓のそばだ
気がかりといえばあの娘のこと
22歳になったばかりなのに
すっかり小利口のうるさ型
死をさえロマンティックに夢見て
鉄のベストを着けて
信仰については本職はだし
自分の生気のなさが罪悪で
見つめて放さない
ノアの洪水のあと大空に輝く虹
なのにいつだって覗いている
惨憺通り

ロビン・フッドの扮装でアインシュタインが
記憶をトランクに詰め込み
この道を通り過ぎたのが1時間前のこと
用心深い修道士が旅の連れ
考えられないような醜さで
煙草をたかり
下水管の臭さをけなして出て行った
アルファベットを暗誦しながら
もう誰もあいつに会いたいとは思わない
ずっと昔は有名だったのに
エレキ・ヴァイオリンを弾いていたのが
惨憺通り

医学博士淫蕩氏は自分の世界にこもっている
なめし革の杯から出てこない
セックスと無縁の患者たちが
何とかして表に出そうとする
博士の看護婦 この町ならではの役目
青酸カリ保管の責任者
カード係も兼任で カードには
神の御心に感謝せよ とある
みんながブリキの笛を吹く
聞いてみろよ
身体を伸ばして耳を向けて
惨憺通り

カーテンで通りにアーチを作って
祭りの準備が始まった
オペラに登場する幽霊は
あの司祭にまるで生き写し
みんながカサノバをおだて上げ
安心させておいて
殺すのだから確信犯だ
言葉の毒が回るのを見計らっているんだ
幽霊が痩せた女たちに叫ぶ
出て行け お前たちが見たとおり
カサノバが罪に堕ちたのは立ち寄った先のせいだ
惨憺通り

真夜中になって諜報員と
特殊部隊が
一斉検挙を始める
余計な知識を持っている者を
工場に連行し
心臓発作負荷器を
肩から掛けさせ
その上灯油を
城から運ぶ
保険外交員に
監視させる 逃げるとしたらその先は
惨憺通り

讃えられてあれ ネロも崇めた海神ネプチューン
タイタニック号は正午に出航
人みな叫ぶ
敵か味方か
するとエズラ・パウンドとT. S.エリオットが
ブリッジで争いを始める
カリプソ歌手は笑って見ているだけ
船員は胸に船を抱き
窓の外には波しぶき
誰もまともに考えようとしないみたいだ
惨憺通り

昨日手紙が届きました
ドアの取っ手が壊れたのが同時です
何をしているのか聞いてくれたけれど
気の利いた質問のつもりかい
君が様子を知りたかった人たちは
もちろん知っている 偏った人たちだ
どの人だかもう一度良く整理して
名前と顔を一致させるよ
そうでないとすぐには返事できないから
しばらく手紙は送らないでくれ
どうしても送りたいなら入れるポストは
惨憺通り

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